幸せは結果ではなく、瞬間、瞬間において感じるもの

不安は、将来に対する<br />可能性の表れである。<br />【リブセンス村上太一×ジョン・キム】(後編)

村上 危機や不安に気づいていても、まわりもみんなそうだから大丈夫。そんな心理もあるような気もします。だから、どうにかなるんじゃないかと。

キム みんなと一緒、というのは、居心地がいいんですよね。その気持ちはとてもよくわかります。でも、短期的には居心地はいいけれど、中長期的にはそれが自分の人生を蝕んでいくことになるわけです。そのことにも、気づいているはずだし、気づいても気づかないふりをしているのかもしれない。でも、いずれ「みんな」というのは、終わっていくわけです。村上さんが、25歳の「みんな」とは違う成功を手に入れたように。

 その意味では、これからの時代は、何が自分にとっての幸福か、成功か、というのを、自分でしっかり定義するところから始めなければいけない、選択の時代に入ってきていると思うんです。起業を目指すのか、社内で大きな仕事や出世を目指すのか、それとも仕事はほどほどにして趣味を追求するのか、もっと脱力的に生きていくのか…。正解はないんですね。そしてそのどれもが選択できる、ある意味で極めて贅沢な環境が、今の日本には許されていると思うんですね。

 おそらく村上さんも心がけておられると思うんですが、この時代の特色は、他者に自分の価値観を強要しないことなんです。価値観は強要されない。しかし、だからこそ、しっかり自分で持っておかないといけない。例えば、同じ組織で、同じビジョンに向けて働いていくには、この価値観が合うか、合わないか、というのが極めて大事な時代になっていきます。組織内においては、ここは極めて本音ベースでの議論が求められるようになるでしょう。

村上 たしかに、私は起業という価値観を強要はしないですね。ただ、おっしゃる通り、精神的な豊かさを求めたい、というところでは価値観を同じくする人と働きたい。必死になって仕事をして、お金はあるけれどボロボロになってしまった、というのは、私自身にとっては幸せには見えないんです。お金を手にするというのは、幸せの形として、私は違う気がする。そうではなくて、精神的な豊かさを重視したいし、そういう価値が高まっていくと私は感じています。

 ただ、精神的豊かさというのは、いろんな豊かさがある。家族との時間を大事にしたいという人もいるかもしれないし、私の場合は仕事が充実していることが精神的豊かさです。ここは、しっかり一人ひとりが整理しないといけないでしょうね。

キム 少なくとも、明日の幸せのために今日を犠牲にする、という幸せの捉え方は時代遅れだということに気づいておかないといけないと思います。でも、これが日本中に価値観として蔓延してしまったように思えるんです。今日、我慢することが、明日の幸せを保証してくれる、というような。

 幸せは、あたかも今、我慢して、最終的に到達したところで自分を待ち受けているものなのではないか、と思いがちです。しかし、おそらくそこに到達しても、また次なる到達点が設定されてしまうものなんですね。ずっと追いかけるけれど、永遠に追いつくことができないような、無限スパイラルに入ってしまう。

 そうではなくて、自分が今、幸せになるために努力している瞬間こそ、充実感を感じたり、幸せを感じたりすることができるんです。幸せは結果ではなく、瞬間、瞬間において感じるもの。もっといえば、幸せは“状態”なんです。そう捉えると、幸せを自分で見出すことができる。その見出せる権限や義務は、自分にあるんです。そこに気づけば、あらゆる物事の中から自分で幸せを見つけることができる。そういう人は、常に幸せだし、明日の幸せも手に入れられるんです。

村上 私は、適度に渇いている状況が幸せだと感じています。何かに満足していない。だから、幸せだ、という感覚です。これが、完全に満足してしまったら、この先、後は何があるんだろう、ということになってしまう。だから、常に一定割合、満足していない状況が、幸せなんだと思っています。

キム 鋭いですね。渇望は欲望の母のようなもので、渇望が完全に満たされてしまうと、人には欲望がなくなってしまいますからね。ちょっと欠如感を自分の中に残すというのは、村上さんにとってはつまり、どんどん目標を高くしていく、ということでしょう。やっぱりこの人は、本質を深いところで理解されています。まだ、若いのに、驚きです(笑)。


ジョン・キム氏/小倉広氏木暮太一氏 鼎談講演会のご案内
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『媚びない人生』ジョンキム・著/ダイヤモンド社)
『僕はこうして、苦しい働き方から抜け出した。』
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場所 :東京 丸の内コンファレンススクエアM+
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定員 :200名

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「対談 媚びない人生」バックナンバー

第1回 媚びない人生とは、本当の幸福とは何か 『媚びない人生』刊行記念特別対談 【本田直之×ジョン・キム】(前編)

第2回 大人たちが目指してきた幸福の形では、もう幸福になれないと若者たちは気づいている【本田直之×ジョン・キム】(後編)

第3回 日本人には自分への信頼が足りない。もっと自分を信じていい。【出井伸之×ジョン・キム】(前編)

第4回 世界を知って、日本をみれば「こんなにチャンスに満ちあふれた国はない」と気づくはずだ。【出井伸之×ジョン・キム】(後編)

第5回 苦難とは、神様からの贈り物だ、と思えるかどうか【(『超訳 ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(前編)

第6回 打算や思惑のない言葉こそ、伝わる【(『超訳ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(後編)

第7回 いつが幸せの頂点か。それは死ぬまで見えない【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(前編)

第8回 国籍という枠組みの、外で生きていきたい【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(後編)

第9回 「挑戦しない脳」の典型例は、偏差値入試。優秀さとは何か、を日本人は勘違いしている【茂木健一郎×ジョン・キム】(前編)

第10回 早急に白黒つけたがる人は幼稚であると気づけ【茂木健一郎×ジョン・キム】(後編)

第11回 やりたいことがたまたま会社だった。だから、自然体で起業ができた。【村上太一×ジョン・キム】(前編)


 
不安は、将来に対する<br />可能性の表れである。<br />【リブセンス村上太一×ジョン・キム】(後編)

 

たちよみページあります!


【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

不安は、将来に対する<br />可能性の表れである。<br />【リブセンス村上太一×ジョン・キム】(後編)
定価:1,365円(税込)
四六判・並製・256頁 ISBN978-4-478-01769-2

◆ジョン・キム『媚びない人生
「自分に誇りを持ち、自分を信じ、自分らしく、媚びない人生を生きていって欲しい。そのために必要なのは、まず何よりも内面的な強さなのだ」

将来に対する漠然とした不安を感じる者たちに対して、今この瞬間から内面的な革命を起こし、人生を支える真の自由を手に入れるための考え方や行動指針を提示したのが本書『媚びない人生』です。韓国から日本へ国費留学し、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヵ国を渡り歩き、使う言葉も専門性も変えていった著者。その経験からくる独自の哲学や生き方論が心を揺さぶられます。

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