人に影響を与える究極の方法

 次に紹介する方法は、よくも悪くもきわめて強い影響力がある。この方法を文章で伝えるのはこれが初めてだ。利用するときは、崇高な目的に限定してほしい。

 感情に強く訴えかけるフィードバックには、2つの特徴がある。

 相手が「深く気にかけている分野」に関連していること。そして、その人物が「力量に不安を感じている分野」であることだ。

 私はこの2つが重なる領域を「フィードバック・パワーゾーン」と名づけ、以下の図を作成した。

 パワーゾーンにいる相手に行うフィードバックは、どんな内容であれ増幅される。なぜなら、それは気にかけていると同時に不安なことに関わるからだ。したがってあなたは、とてつもなく大きなシャインをもたらすか、深刻な影を落とす可能性がある。

 たとえば、赤ちゃんを泣き止ませようとしている新米の母親が目の前にいるとしよう。彼女は「いい母親」になりたいと思っているが、慣れない経験なので自信がない。

 そんな相手に、「うまいなだめ方ね! 私の姉も子どもたちにそんなふうにしていたけど、 姉は私が知ってる中で最高の母親だったわ」と声をかければ、彼女はシャインを感じてとびきりの笑顔になるだろう。

 反対に、こんなふうに言ったらどうだろう。「私がやってみましょうか? この赤ちゃんたらすごく興奮しているみたい」。これは失言だ。新米の母親にとって、このやりとりに含まれている言外の意味は明らかだ──「あなたのやり方はまちがっている」。

 この発言は「パワーゾーン」に位置するが、ネガティブな内容なので、ことさらに相手を傷つける。そして、この母親はあなたのことをけっして忘れないだろう、悪い意味で。

交流する相手をいつでも元気づける

 私の過去1年の個人的テーマは「交流する相手をいつでも元気づけること」だった。自宅の仕事部屋には、この言葉を書き込んだ美しい絵を飾っているほどだ。

 私は研究で得た知見を生かしてこの願望を追求し、タイミングよくフィードバックを行うことで周囲の人々を元気づけようと努力している。

 学生が授業で初めてプレゼンをしたとき、パートナーが新しい料理をつくってくれたとき、誰かが電話で私の研究について質問したとき。こうした状況はすべて、私にとっては相手を励ます絶好の機会だ。彼らはそれぞれ問題を気にかけていて、そこには不安がともなっているからだ。私が口にすべきは、正真正銘の前向きな言葉だ。

 人は傷つきやすい状況にある相手に対し、否定的なフィードバックを与えることがあまりに多い。「プレゼンの導入部が間延びしていたね」「この魚ちょっとパサついてるな。どのくらい焼いたの?」「あなたの質問からして、本当は私の論文を読んでいないでしょう」

 そんなことを言ったら台無しだ。くれぐれも控えること。

(本原稿は『習慣超大全──スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』(BJ・フォッグ著、須川綾子訳)からの抜粋です)

BJ・フォッグ(BJ Fogg, PhD)
スタンフォード大学行動デザイン研究所創設者兼所長
行動科学者
大学で教鞭をとるかたわら、シリコンバレーのイノベーターに「人間行動の仕組み」を説き、その内容はプロダクト開発に生かされている。タイニー・ハビット・アカデミー主宰。コンピュータが人間行動に与える影響についての実験研究でマッコービー賞受賞。フォーチュン誌「知るべき新たな指導者(グル)10人」選出。スタンフォード大学での講座では、行動科学の実践により10週間で2400万人以上がユーザーとなるアプリを開発、リーンスタートアップの先駆けとして大きな話題になった。教え子からインスタグラム共同創設者など多数の起業家を輩出、シリコンバレーに大きな影響を与えている。『習慣超大全──スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』はニューヨークタイムズ・ベストセラーとなり、世界20ヵ国で刊行が進んでいる。

須川綾子(すがわ・あやこ)
翻訳家
東京外国語大学英米語学科卒業。訳書に『EA ハーバード流こころのマネジメント』『人と企業はどこで間違えるのか?』(ともにダイヤモンド社)、『綻びゆくアメリカ』『退屈すれば脳はひらめく』(ともにNHK出版)、『子どもは40000回質問する』(光文社)、『戦略にこそ「戦略」が必要だ』(日本経済新聞出版社)などがある。