【人を動かす秘訣1】
指示する行動を「ごく簡単」にする
だが、マイクは行動デザインの重要なツールを身につけたおかげで、この状況を打ち破ることができた。彼の願望ははっきりしていた──彼の大切なマシンに対してクリスが敬意を払うこと。この場合、具体的な行動は「コーヒーメーカーの手入れをすること」だ。
そこでマイクは、タイニーハビットの手順(本書参照)に従い、「この習慣をもっと簡単にするにはどうすればいい?」と考えた。
マイクがクリスにやってほしい行動は、3つのステップからなる動作だった。フィルターを取り出し、水洗いし、もとに戻す。
クリスにこのすべてを同時に伝えてもこれまで効果がなかったので、「最初のステップだけ」を伝えることにした。
「なあ、クリス、今度からコーヒーメーカーを使ったら、フィルターを外してカウンターに置いておいてくれないか?」
クリスはけげんそうな顔をして「わかった」と答えた。
翌朝、コーヒーを飲みにやってきたマイクは、にやりと笑った。フィルターがカウンターの上にあるじゃないか。横に傾いてコーヒーのかすが少しこぼれているが、それでもフィルターはカウンターにある。
【人を動かす秘訣2】
「達成感」を実感させる
マイクは誇らしい気分になった。コーヒーカップを手に2階に戻りながら、彼は「相手に達成感を実感させる」という私の格言を思い出した。
「クリス、フィルターをカウンターに置いてくれてありがとう。父さんにはすごく大切なことなんだ」
クリスはちょっと驚いたような表情で、「たいしたことじゃないよ」と言った。
フィルターは次の日もカウンターに置かれていた。
マイクはひどく驚いた。念を押す必要さえなかった。クリスがこのささやかな課題を欠かさずこなすのを見て、マイクは自分のやり方がうまくいっている、まぐれではなかった、と手ごたえを感じた。
2週間ほどして、マイクがクリスにフィルターをカウンターに置く前に水洗いしてくれないかと頼むと、クリスはそうすると応じた。フィルターを取り出すのはやってみるととても簡単だったし、どういうわけか父親の機嫌が妙によくなるからだ。
それから1週間後、カウンターにフィルターが見当たらなかった。マイクはがっかりした。
クリスが最後までやらないのはいつものことだった。だが、息子はこの習慣を身につけている途中なのだと自分に言い聞かせ、クリスを責めないことにした。
ところがフィルターを取り出してみると、きれいになっていた。クリスはフィルターを取り外して、水洗いし、もとに戻していた。
マイクは小声で「やったぞ」と言った。成人した息子が小さな課題を達成したくらいで大げさだと思うかもしれないが、マイクがのちに私に語ったように、それはたんなるコーヒーフィルターの問題ではなかった。それは希望にほかならなかった。(中略)