今、最も注目を集める急成長企業ワークマン。「高機能・低価格」という4000億円の空白市場を開拓し、“頑張らない経営”で10期連続最高益。「#ワークマン女子」も大人気で、3/19には都内初となる東京ソラマチ店もオープン。国内店舗数ではユニクロを抜き、「日経MJ」では「2020ヒット商品番付(ファッション編)」で「横綱」にランクイン。4/9には「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)で大きく特集された。
急成長の仕掛け人・ワークマンの土屋哲雄専務の経営理論とノウハウがすべて詰め込まれた白熱の処女作『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』がたちまち4刷。
『ユニクロ』にも『しまむら』にもない勝ちパターンを発見した」(早大・内田和成教授)
ワークマンの戦略は世紀の傑作。これほどしびれる戦略はない」(一橋大・楠木建教授)
縄文×弥生のイノベーションは実に読みごたえがある」(BCGシニア アドバイザー・御立尚資氏)
めちゃめちゃ面白い! 頑張らないワークマンは驚異の脱力系企業だ」(早大・入山章栄教授)
など経営学の論客が次々絶賛。10/26、12/7、2/1に日経新聞に掲載された。
なぜ、「しない経営」が最強なのか?
スタープレーヤーを不要とする「100年の競争優位を築く経営」とは何か。
ワークマン急成長の仕掛け人、土屋哲雄専務が初めて口を開いた(土屋哲雄の本邦初公開動画シリーズはこちら)。(構成・橋本淳司)

会社員 変化Photo: Adobe Stock

「気弱SV」が劇変した理由

人に強く言えないワークマン「気弱SV」が劇変した理由土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を『ワークマン式「しない経営」』で初めて公開。本書が初の著書。

 前回紹介したBさんは、SVとしてはとても気弱で頼りない感じだった。

 一緒に加盟店を回ると、経験豊富な店長に気おくれしてしまう。

 店長の中には、流通大手で20年間靴を売っていた人や、アパレルショップでカリスマ店員だった人など優秀な人が数多くいて、Bさんが何か提案しても、聞き入れてもらえなかった。

 Bさんは慎重に物事を考えるタイプで、強い調子で相手を説得することは苦手だった。

 かつてのSVには大げさな言動や強気な態度も必要とされていた。

 前述したようにワークマンはデータのない会社だったからだ。

 店舗の在庫データがなければ、「気合」で説得するしかない。

 そういう時代には、SVと店長は勘と経験をぶつけ合って丁々発止の勝負を繰り広げていた。

 SVの説得に対し、時には「本部の言うことにダマされるもんか」と言う店長もいた。

 Bさんはエクセル研修を受けた後に分析チームに入り、データを活用しながら自分でいろいろ実験した。

 それを発表し、全社に広まったという成功体験を積んだ後、データ分析のプロになった。

 説明の仕方は相変わらず朴訥(ぼくとつ)としていたが、データを示しながら「この製品を仕入れると儲かります」と数字で説明できるようになった。

 加盟店にとってみれば、「口ベタなSV」から「Bさんの言うことを聞くと儲かる」という存在に変わった。

 以前は話すのが苦手で仕事に対する自信もなかったが、データ分析のプロとして加盟店から評価されると、仕事に前向きになっていった。

 「繁盛店はこの製品の陳列を目立つようにしています。店長の店より3倍売っています」

 とデータを示し、儲け話に置き換えて店長に提案する。

 そういった数字が頭に入っているから、現場でもスラスラ出てくる。

 SVには大きく2つのタイプがいる。

 コミュニケーション型とデータ活用型だ。

 コミュニケーション型は、天性の人間力でうまく店長の懐に飛び込み、相手の心をくすぐる技を持っているが、先天的な要素が多く、ゼロから育てるのが難しい。

 だが、データ活用型は後から学ぶことができる。
こちらは社内で育てられる。再現性がある。

 Bさんはクリエイティブのセンスがあり、その後異動し、営業企画部で販促物の作成などを行っている。

 彼は販促物を作成すると、必ずA/Bテストを行う。同じ製品のPOPを、Aパターン、Bパターンと少しだけ変えて作成し、同じ時期にどちらのPOPが販売につながったかを調べ、POPの最適化を図っている。

 たとえば、清涼性が売りの作業服のキャッチを、

 Aパターン「暑さに負けない」
 Bパターン「暑さに耐え抜く」

 と2パターンつくり、どちらが販売につながったかをいくつかの店舗でデータを取り、効果のあったほうを全店舗に展開している(Bパターンのほうが効果があった)。