「自由が利かない国」になりつつある中国
しかし日本の「遅さ」が大問題

――eコマースの延長に中国進出を計画する企業も少なくないようです。

杉田 化粧品大手の中には研究開発拠点まで設け本腰を入れるところもありますが、あくまで輸出ベースにとどまる企業もあります。中国での製造販売となれば成分表示の提示を迫られるわけですが、それは企業の生命線であるソースコードの開示にもつながるわけで、これを死守したい企業は現地生産には否定的です。

 確かにeコマースで売れている日本ブランドはたくさんあり、当然、中国進出を視野に入れるだろうと思いますが、結局中国でやるとなれば“規制の壁”を越えなければならない。そのためには中国企業と組まないとダメなわけです。だからこそいいパートナーを見つける必要性があるわけですが、なかなかそれがうまくいかない。中国ビジネスの成否はいかに信頼できる現地パートナーを見つけるか。結局中国ビジネスの成功は、この古くて新しい課題にぶち当たるわけです。

――中国における事業環境は必ずしも良好とは言い難いわけですね。

杉田 中国は今、2000年代まで進んでいた流れとは異なり「自由が利かない国」に戻りつつあります。特に民営企業の動きが気になります。バイトダンスCEOの張一鳴氏も退任しました。身の危険を感じると思うと引いてしまうのでしょう。民営企業のトップが作る泰山会も今冬解散しました。ジャック・マー氏が主宰する湖畔大学も看板を下ろし、イノベーションセンターになってしまいました。

――一方、中国のスピードは日本の脅威にもなっています。

杉田 たとえば最近、中国の人民解放軍が抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」を特許申請し、中国の国家知識産権局(CNIPA)がそれを認めたことが物議を醸しています。富山化学工業(現・富士フイルム富山化学)が持っていた20年間の特許有効期間が切れ、2019年に特許が失効し、その隙間を狙った用途特許としての申請だったといえます。

 現在、北里大学特別栄誉教授の大村智氏が発見した寄生虫病の特効薬イベルメクチンも、新型コロナウイルスの治療と予防に効いているといわれていますが、この特許さえも取られてしまう懸念があります。そういう“中国スピード”に対しても日本は対応の難しさを迫られています。むしろ問題となるのは“日本の遅さ”です。

――ありがとうございました。