一方、同じく当初の目的である「革命伝統教育を強化し、人民の愛国心を高め、民族的な精神を育むこと」という面でも、今のところ中国共産党の思惑は成功しているようだ。
「紅色旅游」はこの10年以上、企業や学校の研修ツアー、高齢者のツアーなどの形で活用されてきた。そのため、小学生から大学生、会社員、高齢者に至るまで、幅広い人々が訪れているというイメージを筆者は持っていた。筆者は上記で名称を挙げた「紅色旅游スポット」にはほとんど行ったことがあるが、紀念館の前に到着すると、全国からやってきた大型観光バスが何台も並んでおり、ツアーの旗を掲げたガイドと、おそろいの帽子をかぶった観光客が大勢いたからだ。
もちろん、そうしたツアーは現在でも続いているのだが、近年では、休日などを利用して、わざわざ個人的に行く人も増えているようなのだ。その多くが、前述したような20代~30代を中心とした若者だ。
取材してみると、筆者の知り合いに「紅色旅游」に自ら出かけているという若者はいなかったのだが、間接的に「行っている人を知っている」という上海在住の友人がいた。その友人は教育関連の仕事をしており、彼によると「中国共産党への入党を希望する大学生が増えていることと関係しているのではないか」という話だった。
「今の若者の一部は、新型コロナに打ち勝ち、米国と対等かそれ以上に渡り合っている母国(中国)をとても誇らしく思っています。中国共産党に入党できれば、成績優秀者というお墨付きももらえるし、就職にも有利。厳しい競争社会で、他人より抜きんでるために、入党したいと思っている。そこで、党の歴史を学ぶために、わざわざ『紅色旅游』に出かけているのではないでしょうか?」(上海在住、40代の男性)
中国共産党は2002年に企業家の入党を認めたことで、2000年代に党員数が増加。党員は2017年には約8956万人だったが、国営新華社通信の報道によると、今年6月5日の統計で約9600万人となり、右肩上がりで増えている。2019年の統計では、大卒以上の学歴を持つ党員が全体のほぼ半数になり、1980年代生まれ、1990年代生まれの若い党員が全体の3分の1を超えており、「若返り」が急速に進んでいる。
中国のSNSで「紅色旅游」関連のワードをいろいろ検索してみても、「私も行ってみたい」「中国共産党、最高!」といったような“愛国心”や“愛党心”に満ちあふれたようなコメントを見かける。日本人の目から見れば「本当に?本心から?」と思ってしまうところもあるが、世界が今もコロナで苦しんでいる中、中国経済がいち早く立ち直ったことは、確かに彼らの自尊心をくすぐり、「誇り」に値するのかもしれない。