過去最高額を儲けた「実験」でレディオヘッドが生んだ新ビジネスモデルPhoto: Adobe Stock

人々を熱狂させる未来を“先取り”し続けてきた「音楽」に目を向けることで、どんなヒントが得られるのだろうか? オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだという経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽やアーティストの分析を通じて、ビジネスや人生を切り開くための道を探った一冊だ。同書の一部を抜粋して紹介する。

新しいビジネスモデル
──レディオヘッドの実験

 デジタル化とインターネットはミュージシャンに、自分の音楽を録ってファンに直接売る新しいチャンスを提供した。

 その方向での初期の実験に、イギリスのロックバンド、レディオヘッドがやったものがある。

 2007年、レディオヘッドはアルバム「イン・レインボウズ」を直にウェブサイトでリリースし、ファンは好きな代金を払ってデジタルでダウンロードしてくださいと発表したのだ。

 この実験は、ファンの経済的インセンティヴに対する反応を試すものだった。

 お金の支払いは全部、あくまでも自主的に行われる。

 ファンはアルバムにびた一文払わずに済ますことだってできるのだ。

 で、バンドのウェブサイトで最初の1ヵ月に音源をダウンロードした100万人のファンのうち、だいたい60%はびた一文払わなかった。

 それから、正規でないウェブサイトからタダでダウンロードした人がさらに何百万人もいた。

 でも、レディオヘッドの公式ウェブサイトからダウンロードした人のうち、40%はお金を支払うほうを選んだ。

 彼らはダウンロードしたアルバム1枚あたり平均で6ドル払っている。

「イン・レインボウズ」の原盤権を持つレディオヘッドはこの「言い値で売ります」実験で、300万ドル近くを手にした。

 レディオヘッドのフロントマン、トム・ヨークはこう言っている。

「デジタル配信での稼ぎでいうと、このアルバムでの儲けはレディオヘッドの他のアルバムを全部合わせたよりも多かったんだよ」

 レディオヘッドの実験はその後現れる音楽配信の新しい方法の先駆けだった。

 今では、テイラー・スウィフトやアデル、ビヨンセといった大人気のアーティストが新しい曲をリリースするとき、時間差を設けている。

 たとえばスウィフトは、一番新しいアルバム「レピュテイション」を発表してから、スポティファイやアマゾン、アップル・ミュージックでダウンロードできるようにするまでに、3週間の時間を置いた。

 どうして?

 これらの配信サービスでは、印税がアルバムそのものを売って得られるより安いのだ。

 彼女の一番のファンならアルバムを買う。

 この戦略の下、最初の週にアルバムは120万枚売れた。

 これはエド・シーランのアルバムで2017年に一番売れたものを上回る数字だ。

 技術革新で「中抜き」が急速に進んでいる。

 ミュージシャンが、レコード・レーベルを通さなくても、自分で音楽をプロデュースし、録音し、発表し、配信できるようになったのだ。

 コバルトなんかの会社はインディ系のアーティストが音楽を世に出し、印税を手にするのを後押ししている。

 それからディストロキッドなんかのサービスは、アーティストが自分の音楽をストリーミング・サービスやオンライン・ストアにアップロードできるようにしている。

 新しい音楽がどんどん生まれる今、よく知られていない新しいアーティストにとって一番の大仕事といえば、聴いてくれるお客を集めることなのだ。

(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)