韓国で120万部のミリオンセラーとなった話題書がある。『どうかご自愛ください ~精神科医が教える自尊感情回復レッスン』というタイトルの本だ。精神科医である著者が「自尊感情(≒自己肯定感)」の回復法を指南した一冊である。「些細な事を気にしすぎる」「パートナーとの喧嘩が絶えない」「すぐに人と比べて落ち込む」「やる気が出ない」「ゆううつ感に悩んでいる」など、人々が抱える悩みのほとんどは自尊感情の低下が原因だと本書は伝えている。そして、その回復法を教えてくれる。
本書の日本版が、ついに7月14日に刊行となる。その刊行を記念して、本書の一部を特別に紹介する。今回は、「自尊感情とは何か?」について触れた内容を紹介していこう。

最近よく聞く「自尊感情」って何? 専門家がわかりやすく解説!Photo: Adobe Stock

自尊感情とは何か?

 いつからか「自尊感情」という言葉に遭遇することが多くなりました。それだけ現代社会において自尊感情が重要視され始めたということなのでしょう。

 しかし、自尊感情とは何か? と尋ねられても「自分をどれだけ愛せるかの度合いのこと」「プライド」「自分を大切に扱う姿勢」など、その解釈は人によって実にさまざまです。そこで本題に入る前に、まずは本項にて自尊感情の意味からまとめておきたいと思います。

 まず、自尊感情とは、「自分自身をどのように評価するか(self-esteem:セルフ・エスティーム)」というのが基本的な定義です。自己評価のレベルの高低を意味し、100点満点中70点など、数字や高さで表すことも可能です。

多くの悩みは自尊感情とつながっている

 自尊感情は、私たちが発する言葉、行動、判断、感情など、人生のあらゆることに影響しています。また、「心の健康」を測るバロメーターでもあります。

 人間関係に苦労する人、恋愛に苦しむ人、ゆううつになりがちな人、自分は不幸だと考える人などはみな、自尊感情の問題を抱えているからです。

 特に昨今のように生きづらさを訴える人が多いときこそ、自尊感情が一段と重要になります。自尊感情は、社会環境と密接に関係しています。どんなに自尊感情の高い人でも、ストレスやプレッシャーに持続的にさらされると自尊感情は低くなるのです。一方でこれは、裏を返せば自尊感情が低い人も環境によって次第に回復できるということでもあります。

自尊感情の3つの基本軸

 自尊感情には3つの基本軸があります。

最近よく聞く「自尊感情」って何? 専門家がわかりやすく解説!自尊感情の3つの基本軸。『どうかご自愛ください』より抜粋

 まず、「自己有用感」です。これは、自分がどれだけ他者や社会に役に立っているかを感じることです。替えがきかない職業に就いているとか、まわりから能力を認められると自尊感情も高まります。

 2つ目は「自己調整感」です。自らの望み通りにやりたい、自分らしくありたいと思う本能のことです。この本能が満たされると自尊感情はおのずと高まります。都会の有名一流企業で必死に働く人よりも、田舎で野山を自由に駆け回って育った人のほうが高い自尊感情をもっているケースはいくらでもあります。これこそ自己調整感が関係しているからにほかなりません。

 3つ目は「自己安全感」です。つまり、持続的に安心感を得られることです。虐待やPTSDなどのトラウマを抱えた人、愛情に飢えている人などは普段から不安を感じやすい状態です。また、一人でいることに耐えられない人なども不安で安心感を得られません。これらの人たちは自尊感情が低くなりがちです。

 よく自尊感情は「自分をどれだけ愛せているかを測る指標」と紹介されますが、まさにその通りです。自らを何の価値もない人間だと感じたり、自分をコントロールできなかったり、不安を感じて心が健全ではない人は、自分を愛することが難しくなるのです。

自尊感情が回復すると人間関係に悩まない

 自尊感情は、自分をどのようなレベルで受け入れるかという感覚でもあります。この感覚は、その時々で変化します。まるでジェットコースターに乗っているかのように、上がるときは興奮し、下がるときは恐怖感が増します。

 自尊感情を回復させた人たちは、このアップダウンのスピードに対して耐性があります。急降下する場合でも、自分には安全ベルトがあり、墜落の確率も低いことをよく知っているので過度に怖がりません。上がるときも同じで、必ずまた下がることを知っているため、前もって心構えができています。

 自尊感情が回復すると人間関係に悩まなくなるのもこのためです。周囲から非難されても、そのショックが尾を引くことはありません。それで一時的に自尊感情が下がったとしても、大きく振り回されたりしないのです。また、自尊感情が健康な人には、おのずと良い評価もついてきます。

自尊感情は本当に回復できるのか?

 結論から言うと、落ちた自尊感情を回復させることは可能です。簡単に回復できる人もいれば、時間がかかる人もいます。その過程が苦しくて諦めてしまうこともあります。しかし、確実なことは、努力すれば間違いなく自尊感情を取り戻せるということです。

 自尊感情を回復する過程は、自転車の乗り方を覚える過程と似ています。本書はこの自転車がどんな形であり、どうすればうまく乗りこなせるかを詳しく案内していくものです。自転車の乗り方だけでなく、転ばずに長く乗れる方法、安全な転び方、身に着けるべきサポート装備についてもピックアップします。

 自転車に乗ったことがある人ならば、一度や二度は転んだ経験があるでしょう。長年乗りこなしている人でも、たまには転んで擦りむいたりするものです。しかし、転んだとしても、自転車を起こしてもう一度走り出す方法や傷を癒す方法を知っていれば、過度に自転車を怖がることはないはずです。転んでも再び自転車に乗りたくなりますし、もっと楽しく乗れるようにもなるはずです。この本を読むみなさんも、そんな気持ちになれると信じています。

(本原稿は、ユン・ホンギュン著、岡崎暢子訳『どうかご自愛ください』からの抜粋です)

ユン・ホンギュン
自尊感情専門家、ユン・ホンギュン精神健康医学科医院院長
中央大学校医科大学を卒業し、同大学医科大学院で博士課程を修了。京郷新聞、韓国日報、月刊生老病死などへの寄稿のほか、FMラジオ交通放送「耳で聞く処方箋」などの相談医としても活躍。韓国依存精神医学会、韓国賭博問題管理センター、中央大学ゲーム過没入センター、性依存心理治療協会、校内暴力防止のための100人の精神科医師会などで活動。主に関心を寄せている分野は「自尊感情」と「依存」。初の著書『どうかご自愛ください ~精神科医が教える「自尊感情」回復レッスン』が韓国で120万部のミリオンセラーに。