キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)を早める方法

上野 なぜ、アメリカ企業とこんなに差が出ているのだろう、正直言って驚きです。

林教授 そうだよね。その主な原因がシステム化の遅れだ。政府も大企業の経営者もシステムのことをよく知らずに過ごしてきたんだ。もう10年ほど前、ボクはアジアの国々で業務のシステム化を手伝ってきた。当時、中国、台湾、韓国、東南アジアは、業務システムの全取替が進んでいた。部分的な手直しではなくリプレイスだ。だが、日本企業は業務システムを変えようとしなかったんだ。これが足枷となって、世界から遅れをとったんだよ。この30年間、日本の成長率がOECD加盟国と比べて飛び抜けて低い原因は、このシステム化の遅れにあると言っていい。

田端 いまだにハンコと紙がなくなりませんしね。でも、エクセルは使いこなしていますよ。

林教授 エクセルは手作業と同じなんだ。CCCを短くするには、原材料仕入代金の支払いを遅らせ、在庫を減らし、販売代金の回収を一体として早める必要がある。中でも、在庫を減らすのが大変だ。このためには全社システムを抜本的に作り替える必要がある。日本経済新聞の記事は各社の取り組みを紹介している。

「資生堂は人工知能(AI)を用いて化粧品の需要予測の精度を高めて生産計画に反映し、在庫水準を抑える。商品や容器の在庫、生産・出荷、資材調達などを一元管理できる世界共通のシステムの開発を進め、昨年末に149日だったCCCを100日まで短くする方針だ。…味の素はIT(情報技術)でサプライチェーンを管理し、在庫水準の引き下げを進める」(同上)

田端 簡単ではないですね。

林教授 会社の全ての業務システムを抜本的に見直して置き換えなくてはならない。このことをDX(デジタル・トランスフォーメーション)というんだ。

カノン DXですか。興味あります。

林教授 ようやく動き出したんだよ。遅きに失したとは言わないが、頭がかたいトップの人たちが日本経済の足を引っ張ってきたんだ。最終回はDXと管理会計の未来について説明しよう。

林 總(はやし・あつむ)
公認会計士、税理士
元明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。