工夫が必要な点はあるが、やらないより100倍よい

――ともあれ、「生命(いのち)の安全教育」が2020年から試験校で始まりました。教材を見てどのような感想をお持ちですか? 
※「生命の安全教育」の「教材及び指導の手引き」は文科省のサイトから確認することができる

 まず、やらないよりもやった方がよいのは間違いありません。一歩前進であることは間違いないのですが、とはいえ、やはり改善点は多いと感じています。

――どのような点でしょうか?

 たとえば、中学生向けと高校生向けの資料がほとんど同じなんですね。その年齢の成長は著しいですから、小学校を卒業したばかりの12歳と、間もなく成人を迎える18歳が同じでよいとは思えません。大雑把な作り方をしている。

 また、イラストが「女性」「男性」に描き分けされているところも気になります。「Consent for kids」という動画と同じように棒人間でよいと思いますね。同性同士での被害もありますし、性自認も多様ですから。
※「Consent for kids」…イギリスで制作された性的同意を子どもが学ぶための動画。大人のための「Consent-it’s simple as tea」もある。日本語吹替版は函館性暴力防止対策協議会が作成。

――そのほかに気になる点はありますか。

 「痴漢」に関する記述が一切ありません。痴漢こそ、最も多くの生徒たちが被害を受けている身近な性暴力なのですが。
※「青少年の性行動全国調査報告」(2017年)によれば、痴漢の被害率は、高校生(女子10.6%、男子1.4%)、大学生(女子24.0%、男子2.5%)

 また、もっとも気になっているのが、最初に「よい人間関係ってどういうものか考えてみよう」と問いを出して、そのすぐ後に答えを提示している点です。生徒たちが自分で考えるプロセスを大切にして、豊かな結論を導き出すことが大事だと思うのですが、これでは「良い人間関係とは自分も相手も大切にすることです」「性暴力の被害者は悪くありません、加害者が悪いのです」といった徳目を実感なく覚えることになってしまうのではないか。その点を心配しています。

 とはいえ繰り返しになりますが、やらないよりやるほうが100倍いいです。見直しや工夫を重ね、より良いものにしていってほしいと考えています。