政府の無策、遅れた科学、
非科学的な精神主義の結果が「無観客」に集約

 政府はこれまで、感染拡大を防ぐために、国民に対してひたすら行動制限を求め続けてきた(第275回)。五輪という世界最大のスポーツイベントの開催も、国民の行動制限だけで乗り切ろうとしている。

 五輪を安心・安全な大会にするために、国民はもっと行動制限を頑張らなければならないと言っているのに等しいのだ。だが、それはまるで「竹やりでB29を落とす」というような、いつもの精神論ではないだろうか。

 何度でも強く強調しておきたいが、緊急事態宣言下の五輪開催という異様な事態を招いたのは、ワクチン確保ができなかった政府の無策である。

 要するに、五輪の無観客開催とは、国民に責任を押し付けた政府の無策、最先端の研究から取り残されてしまった科学、昭和の幻想がいまだのさばる非科学的な精神主義の結果だ。それは、日本の国力の衰退を全世界に見せつけた、完全なる国家的大敗北なのではないだろうか。

英国の挑戦が世界を変えるかもしれない

無観客五輪開催という異常事態は、ワクチン確保に失敗した政府の無策が招いた本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 最後に、新型コロナの感染者の増加にもかかわらず、ワクチン接種による重傷者、死者の減少を科学的根拠にして、新型コロナ感染抑制のための制限措置の大半を解除し、経済、社会を正常化するという挑戦を、英国が行うことの意義を考えてみたい。

 英国がこのチャレンジに成功すれば、世界の新型コロナ対策を、感染者の拡大防止から、重傷者・死者の抑制に転換させることになるだろう。それは、感染者数の増減のみに一喜一憂し、国民の行動制限をひたすら求める日本のコロナ対策を変えるきっかけになるかもしれない。

 そして、英国は新型コロナ対策で世界を主導していることを示すことで、失いかけた国家の威信を取り戻すかもしれない。

 英国を見ていて強く感じるのは、政治家、専門家が本当に必死に考え、行動していることだ。それは、EU離脱による激動で、国家存亡の強い危機感があるからだ。

 国家としての生き残りをかけて、なんとしても新型コロナ対策で世界を主導するのだという、不退転の覚悟があるのだ。そして、それは日本の政治家、専門家に最も欠けているものなのである。