シリコンヴァレーの「すごすぎる地の利」

 シリコンヴァレー一帯は地中海性気候で、夏は少雨となり晴天が広がります。アメリカ本土西部の太平洋沿岸に位置しますので、沖合をカリフォルニア海流という寒流が流れ、夏の気温の上昇がそれほどみられません。つまり夏でも不快な暑さはなく、青空が広がって実に過ごしやすい。

 さらに大都市であるサンフランシスコまで50㎞程度と近距離に位置しているため、生活に必要な物資、そして情報が簡単に手に入ります。先端技術産業は「情報が命」です。こうした地の利を求めて多くの企業が集まってきます。

 加えて近隣にはスタンフォード大学があるため、ここを卒業した技術者たちが次々とシリコンヴァレーで起業していくわけです。

 産学協同で競い合い、世界的な先端技術産業の集積地となっていきました。アメリカ国内からだけでなく、アジアからの移民(非ヨーロッパ系移民)が急増し、サンベルトでの労働力として吸収されていきました。

 シリコンヴァレーは、現在においても世界中から優秀な技術者を吸収しています。さらに、ここで培った技術をもって母国へ帰り起業する人もいます。こうした「頭脳還流」が「第二のシリコンヴァレー」を作り出す土台となっています。

 これは、イスラエルのテルアビブなどが好例です。テルアビブはアメリカ西海岸と同様に地中海性気候のため、シリコンヴァレーと気候環境が似ています。

 また西アジア情勢を考えると、イスラエルは周囲をアラブ国家に囲まれているため、古くから産学協同で先端技術の研究開発をする必要に迫られていた事情があります。さらにイスラエルには徴兵制が存在するため、こうした経験がより一層の研究意識を育てるのかもしれません。

 イスラエルといえば、「点滴灌漑(配水管などを用いて土壌や根に灌漑水を与えることで、水や肥料の消費量を最小限にする灌漑方式)」を作り出した国であり、乾燥気候が広がる南部において、食料自給率を高めてきました。困難をテクノロジーで解決しようという精神が根付いているといえます。

 他にも、ルワンダのキガリ、ロシアのモスクワ、メキシコのメキシコシティ、エストニアのタリン、スウェーデンのシスタ、ドイツのベルリン、インドのバンガロールなどが注目を浴びています。

 先端技術産業は「情報が命」です。その情報は人間の移動によって空間を越えていきます。人的な交流を高めることこそ先端技術産業の成長につながるのかもしれません。

(本原稿は、書籍『経済は統計から学べ!』を抜粋・編集して掲載しています)