今、30代、40代を中心に「投資収益で生活費を賄い、早期リタイアする人」が急増している。そのスタイルは「Financial Independence Retire Early」の頭文字をとって「FIRE」と呼ばれている。「FIREの指南書」として話題の『FIRE 最強の早期リタイア術』は多くの人に読まれ、長期的なベストセラーとなっている。「FIRE」を目指す人たちは、決して「働きたくない人」「大金を稼いで悠々自適に暮らしたい人」たちではない。なぜ、今多くの人が「FIRE」という生き方を本気で目指そうとしているのか。彼ら、彼女らが目指すライフスタイルとはどういうものなのか。『FIRE 最強の早期リタイア術』の翻訳者であり、自身も「サイドFIRE」を意識して新しいライフスタイルを模索している岩本正明さんに話を聞いた。(取材・構成/イイダテツヤ)

「お金を稼ぐためだけの人生」でいいのか?今、多くの人が“早期リタイア”を本気で考えているPhoto: Adobe Stock

――『FIRE 最強の早期リタイア術』のなかでは「とにかくFIREを目指しましょう」というだけでなく、「FIREの負の側面」もきちんと明記されています。こうした「負の側面」について岩本さんはどう考えていますか。

岩本 たしかに、この本では次の3つを「FIREの負の側面」として挙げています。

・お金が底をつく不安
・コミュニティを喪失する不安
・アイデンティティを喪失する不安

 まず一つ目の「お金が底をつく不安」に関しては、本書のなかでも、この連載記事でもたっぷりと触れています。その不安を、誰よりも著者自身が感じているので、極端なくらいさまざまなデータ、情報を調べ抜き、慎重すぎるくらいな姿勢で資金を運用していきます。

 そんな著者の姿勢こそが不安解消に繋がっていると感じます。

 この本を読むなかで、著者の「慎重すぎる姿勢」「絶対に失敗したくない」「損をしたくない」というマインドは感じてもらえると思いますし、それでいて本書には、ディフェンシブながらも、しっかりとお金に働いてもらう方法が書かれています。

――コミュニティの喪失についてはどうですか?

岩本 会社を辞めれば、自分のもとから去っていく人は絶対いると思うんです。関係が続く人ももちろんいますが、去っていく人、離れていく人はいます。でも一方で、自分の趣味の時間が増えたり、地域貢献などの活動を始めたら、新しい出会いもたくさんあります。

 たとえば、この著者は旅をするのが大好きで、一年中世界を旅していますが、旅をするなかでもいろんな人に出会い、新しいコミュニティもできる。なので、「FIRE」を実現することでコミュニティを失うことはない。失うのではなくて、変わるだけだと私は捉えています。

「お金を稼ぐためだけの人生」でいいのか?今、多くの人が“早期リタイア”を本気で考えている岩本正明(いわもと・まさあき)1979年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、時事通信社に入社。経済部を経て、ニューヨーク州立大学大学院で経済学修士号を取得。通信社ブルームバーグに転じた後、独立。訳書に、『ウォーレン・バフェットはこうして最初の1億ドルを稼いだ』(ダイヤモンド社)『貿易戦争の政治経済学』(白水社)などがある。

――実際、岩本さんも会社を辞めてフリーランスとして働いていますが、コミュニティは変わりましたか?

 それは完全に変わりましたね。今は家族中心で、家族と過ごしている時間がものすごく増えました。その延長で子どもの友だちの親と関わる機会が増えたり、自治体の活動にも参加したりと、それらが新しいコミュニティになっています。

 会社で忙しく仕事をしていると、「会社のコミュニティがすごく大事だ」と感じることもあると思います。それが事実の人もいますが、そもそも会社以外のコミュニティを作る時間がなかったから、結果として「会社コミュニティ」への依存度が高くなっている。そういう人も多いように感じます。

「会社のコミュニティが大事」なのではなく、状況的に「それ以外のコミュニティ」を作ることができなかっただけ。そうだとしたら、本当の意味で「自分にとって大事なコミュニティとは何なのか」を考えるきっかけとしても「FIRE」を目指すのはすごくいいと思います。

 自分の時間がしっかりと持てるようになった上で、本当に大事なコミュニティに時間を使う。とても大事な視点だと感じます。