「こんまり」こと近藤麻理恵は世界で最も有名な日本人の一人。彼女の世界進出を手がけたプロデューサー兼夫である私の書籍『Be Yourself』では、こんまりが世界で活躍するようになった舞台裏を明かしています。今回対談する尾原和啓さんは新刊『プロセスエコノミー』を出したばかり。「EX(エンタテインメント・トランスフォーメーション)」の中核は「プロセスエコノミー」、つまりモノ作りの共犯者や同伴者になれることだと二人は語り合います。(構成/宮本恵理子)

■尾原さん×川原さん対談01回目▶「尾原和啓×川原卓巳「DXの次はEXの時代が来る!」」
■尾原さん×川原さん対談02回目▶「片づけを「苦」から「楽しい」に転換して、こんまりは世界で売れた」
■尾原さん×川原さん対談03回目▶尾原和啓「Netflixもこんまりも尖らせたから世界で勝てた」

プロセスエコノミーは「顧客の自己実現」ができるから受けるんだ尾原和啓さん(写真左、撮影は千川修)と、川原卓巳さん(写真右)

川原卓巳さん(以下、川原) これまでの対談の中でお話ししていた「ギブ」の話題に関連づけると、僕は、“誰に対してギブをするか”と相手を選ぶところまでは、責任を持ちたいと思っているんです。もしも受け取ってくれない相手がいたとしても、「酸っぱい葡萄だ」と不貞腐れずに、受け取ってくれる相手がいる場所まで動けばいい。ギブする相手は自分で選べるんです。

「なぜ分かってくれないの?」と相手の気持ちを変えようとしてもダメ。自分のことをナチュラルに理解し、受け入れてくれる人のところまで行けばいいんです。すると、無理せずに生きているだけで、感謝されて、報酬が生まれて、人生が循環していく。自分のためにも、人のためにも、社会のためになる。

尾原和啓さん(以下、尾原) ありのままの自分で尖っていくことが、すなわち卓巳さんのいう「Be Yourself」ですよね。突きつめると、ほかの誰も真似できなくなるから、ブルーオーシャンで戦える。

川原 みんな、最新のマーケティング理論とかデータを追いかけて、肝心の自分自身を見失っている気がします。いつの間にか「本来の自分」と行動にズレが生じて、長続きが難しくなるんです。もう不毛な戦いはやめようよ、と言いたくて本を書きました。

尾原 その論調は、実はこの5年ほど、ビジネスの世界で言われ始めていましたよね。独立研究家の山口周さんが『ニュータイプの時代』という本の中で、「役に立つものより、意味があるもの」と書かれているように、万人に役立つものはすぐに真似されて稼げなくなってしまう。一方で、その人とって意味を感じてもらえるものは“一点もの”としてお金を払ってもらえる。

川原 その話は、尾原っちの著書『プロセスエコノミー』の考え方にもつながりますよね。

尾原 おっしゃる通りです。

川原 冒頭に説明した「EX(エンタテインメント・トランスフォーメーション)」のコアは、実は「プロセスエコノミー」にあると僕は思っています。モノ作りの共犯者や同伴者になれるというのが、今の時代の最高のエンタテインメントなのだという実感があります。すなわち、完璧に出来上がった完成品を渡されるよりも、「どんなのがいいと思う?」「試してどうだった?」「やっぱり、こっちがいい?」とやりとりしながら、同じ時間と経験を共有していく。そのプロセスが唯一無二の商品なんだと強く思うんです。オンラインサロンの盛り上がりは、まさにそこにあるな、と。

尾原 コトラーも言っています。「その商品を通して自分らしくなっていく旅ができる商品を、人は愛する」と。すなわち、参加価値の先にある共創価値。まさに“共犯”なんですよね。この共犯価値を提供するには、「最初から一緒につくろうよ」とプロセスから顧客を巻き込むほうが“冒険の仲間”になれる。

川原 うん、間違いない。

尾原 実際に選ばれているブランドは、共犯者づくりがうまいんですよ。例えばApple。彼らの冒険の定義を理解できる有名なコピーが「Think Different」。これは、創業者のスティーブ・ジョブズが一度追い出され、戻ってきた後、製品数を大胆に絞った後に生まれたメッセージがこれ。「(We believe that)People with passion can change the world for the better」、すなわち、「情熱を持っている奴が世界をほんのちょっとでも変えることができるんだ。その情熱を持った奴に寄り添うのがAppleだ」。

川原 かっこいいなぁ。

尾原 結局、人間にとって一番大事なのは「why」、「なぜ生きているの?」ですから。この意味を分かち合える仲間になれたら、どこまででも寄り添っていけるんですよね。

 企業と顧客の関係も然り、ビジネスパートナー同士の関係もそうですよね。卓巳さんとこんまりさんの絆も、「why」を共にする冒険の仲間として築かれてきたものでしょう。

 しかも、その絆は「正しいから」ではなく「楽しいから」で結びついている。楽しいから遠くまで行けるし、楽しいからフロー状態が続いて成長できるし。そのうち、日本から世界へと役立ちたい範囲がどんどん広がっていって、利他的にしか遊べなくなってしまう。そうではないですか?

川原 まさにドンピシャの表現です。

尾原 突き進んでいるときの動機は、お金や名誉ではないんです。ただ、自分たちの魂が「こっちだ!」と進む方向にブルーオーシャンが開けていく。そのブルーオーシャンとは、さっき言った「顧客の自己実現」。お客さんがより自分らしくなれるプロセスの共犯者になれるかどうか。
(2021年8月1日公開記事に続く)