加速的な価値観をどう転換するか

関根 「脱成長コミュニズム」が萌芽する都市の事例として、バルセロナを挙げられています。バルセロナはデジタル技術を先鋭的に導入したスマートシティとしても知られていますが、まさにコモンの拡大や豊かさのために技術を活用しているといえませんか。

斎藤 それを可能にするために重要なのが「デジタル主権」の確保です。つまり、市民が自分自身の個人データを自分の意志で利用できるかどうか。金もうけに使おうとする企業に渡さなくて済むかどうか。技術をポジティブに使うためには、企業の規制が必須です。資本主義を前提にした企業間競争が多くのイノベーションを生み出してきたことも一面では事実でしょう。しかし、それがデータの不当な吸い上げや独占を招き、技術に本来備わっているポテンシャルの発揮を妨げてきたことも認識しなければなりません。

 問題は既存の価値観です。大量に生産しよう、速く移動しよう、という価値観に裏打ちされた技術は、結局は資源消費や移動を促進してしまうのです。『スリーエックス』では、地球の持続性を高める技術として「培養肉」が紹介されていましたが、これだって「肉をひたすら食べていい」という価値観を温存したままでは、家畜を減らせたとしても、培養肉生産にかかるエネルギーは増えていきます。より大量に、より高速に、といった加速的な価値観そのものを転換しなければならないのです。

関根 価値観を変えるためにはコミュニティの力が重要であり、技術を駆使した新しいつながりは、そこでも大きな力を発揮すると思います。

斎藤 はい、私も、地域コミュニティの再興が唯一の道だと考えています。SNSやインターネットを介したつながりは、確かにクリエイティビティの源泉になりますが、それだけでは社会基盤としてあまりに脆弱です。リアルなつながりと相互扶助がなければ、人は災害などの非常時に容易に孤立します。自治会でもNPOでも協同組合でも、地域に密着した共同体の再構築が求められています。

関根 もちろん、リアルなつながりも重要です。私たちは、リアルとオンラインを横断した新しいつながり、新たな公として「共領域」を提唱しています。

斎藤 共領域の萌芽事例として挙げられていた地域通貨のような試みには、私も賛成です。共同体の中で人々が触れ合い「自らの意思で社会が変えられる」という実感が湧く場がもっと必要です。しかし、誰もが労働に忙殺されている現状ではそれも難しい。生活の不安を抱えたまま、地域活動に取り組める人は多くありません。労働時間の短縮と、コモンの増大という土台をまずは構築しなければならないのです。