ポストコロナの未来に向けて

関根 ご著書の最後には「3.5%の人が本気で立ち上がれば社会が大きく動く」と書かれていました。実は三菱総合研究所の調査では、自ら行動を起こしたいと考える「積極層」は、20代~30代の若い世代に多く約10%に上っています。彼らが本当に行動に踏み出せる方法を、上の世代として支えていく必要があると思います。

斎藤 新しい価値観を持つ世代が社会の意思決定層になるのはまだ先ですから、今、政治やビジネスの中枢にいる世代が価値観を変えない限り未来は暗い。貨幣価値中心の資本主義のオルタナティブとして「里山資本主義」のような動きも見られますが、二酸化炭素をたくさん排出しているのは地方ではなく都市ですから、地方がいくら頑張っても、大都市が変わらない限りインパクトは限られます。しかし、日本では気候変動が選挙の大きな争点にすらなりません。

関根 確かに、日本では政府にしろ、企業にしろ、気候変動問題に対して「自ら先頭を走ろう」というより「欧米に取り残されないように」という消極的なスタンスですね。

斎藤 そういう意味では、政治家や企業は、ぜひもっと強いメッセージを出してほしいと思います。最近では、ホンダ(本田技研工業)が環境対策への注力を理由にF1からの撤退を表明しました。「コンマ1秒の記録更新より持続可能性にリソースを割こう」というのですから、価値観を転換しようという意志が感じられます。

関根 しかし先ほどの話では、それが一企業のメッセージである限り、結局はSDGsやESGといった資本主義ありきの文脈に吸収されてしまい、社会を変える力にならないといえませんか。

斎藤 確かに、ホンダは資源を大量に浪費するロケット開発にも関与している。そのあたりに、一企業の取り組みの限界が見え隠れします。なので、究極的には、もっと大胆な社会的規制が必要になるでしょう。極端に言えば、週休3日制、使い捨て容器禁止、SUV禁止、短距離の国内航空便廃止、タワーマンション建設禁止、日曜日の全商業施設休業、というぐらい思い切った規制がすぐにでも必要だと思っています。コロナ禍でロックダウンができるなら、本気になれば、これらの提案もできるでしょう。人間は柔軟性が高いので、現実が変われば価値観は後から付いてきます。さまざまな技術ももちろん、役立つでしょう。

 既存の経済システムや働き方が限界を迎えている、という価値観そのものは浸透しつつあります。コロナ禍はそうした価値観の浸透を後押ししました。大事なのは、コロナの危機が去った後も、これを機に新たな道に進むことができるのか。それとも「経済再生」の掛け声で、一気に元の消費主義的な生活に戻ってしまうのか。私たちの選択が問われていると思います。