人気があるのは観光名所とのコラボアイスだけではない。上海のアイスメーカー、鍾薛高(ジョンシュエガオ)食品が手掛ける高級アイスも大人気となっている。鍾薛高は2018年に設立したばかりの新興企業。中国の伝統建築に用いられる瓦をイメージした形状で、高級感のある中華風デザインのパッケージに入っているアイスバー「鐘薛高」(チャイスクリーム)を発売すると、いきなり同年11月11日の「独身の日」のセールのアイス部門で爆発的ヒットとなった。価格は1本20元(約340円)以上もするが、その高級路線が逆に「これまでになかったアイスだ」と人気となり、「天猫」や「京東」などのネット通販を中心に大人気となっている。

 このほかにも、スーパーでは「アヒルの塩漬け卵味のアイス」や「緑色の舌をデザインした青りんご味のアイス」「イカ・カニ風味のアイス」など、中国ならではのユニークな味のアイスが次々と売られるようになっており、アイス市場はかつてないほど活況を呈している。それはデータにも表れており、中国飲食産業協会の統計によると、2014年のアイス市場は約708億元(約1億2000万円)だったが、2019年には1380億元(約2兆3000億円)にまで跳ね上がっている。

 なぜ今、中国で、アイスクリーム市場がこれほど盛り上がっているのか。

「体を冷やす食べ物」が好まれなかった中国で
アイスが人気になったワケ

 現地の情報を調べてみると、いくつかの理由が浮かんできた。一つ目は中国人の食の多様化やライフスタイルの変化だ。中国人にとって、冷たい食べ物は「体を冷やす」と考えられ、真夏でも、積極的にアイスを食べるという習慣は、これまで老若男女を問わずあまりなかった。つい5~6年ほど前まで、漢方の考え方から、夏場でも白湯を好んで飲み、日本人が当たり前のように飲んできた「氷入りのドリンク」さえ飲みたがらなかった若者もいたくらいだ。

 むろん、子どもたちの間でアイスは人気の食べ物だったが、アイスの種類が多くなかったこともあり、それほど魅力的な市場ではなく、これほど急速に売り上げが伸びたことはなかった。だが、2015年の「爆買い」の頃を境目として、ライフスタイルが変化し、伝統的な食習慣から、次第に欧米的な食生活へと移行するように。その一つとして、家庭などで若者から中年世代まで、幅広い層の間で日常的にアイスを食べるという習慣が生まれた。前述した高級アイスメーカー、鍾薛高の創業者、林盛氏も「おやつの選択肢の一つとして、アイスの存在がクローズアップされた」と同社のサイトで語っている。

 当然ながら、そこには物流事情の改善や変化も関係している。これまで中国で有名だったアイスメーカー(蒙牛、伊利、光明など)が発売するアイスは前述した通り、3~8元ほどの商品が多く、消費者はそれらをスーパーやコンビニで買うことが一般的だったが、ここ数年、「餓了麼」(ウーラマ)や「美団」(メイトワン)などのデリバリーサービスを利用する人が急増。アイスもデリバリーで「箱買い」するようになった。前述した鍾薛高も数種類のフレーバーのアイスをデリバリーでセット販売しており、長い時間持ち運びにくいアイスを気軽に買えるシチュエーションができた。