誰もがミスなく仕事できる環境が、マクロひとつでできる
――でも、そうやって「必要なデータ」を瞬時に取り出し、さまざまな視点で精査できる利点はビジネスにも通じる話ですよね。実際の仕事ではどのようなマクロを作ったんですか?
寺澤:そうですね。
私はかつてオフィス向けコピー機の販売支援をやっていたことがあります。じつは会社で使われているコピー機って、それぞれ細かくカスタマイズされたものなんです。同じ機種を同じように使うことはありません。どういったオプションやスペックにして、いくらで販売するかに応じて、カスタマイズされています。
それを営業していくのですが、当然「見積り」を出さなければなりません。Aという機種ひとつとっても、さまざまなバージョン、オプションの見積りが必要となります。その他にも、機種Bや機種Cの見積りを出して、お客様はそこから選ぶという商談になります。
すると、営業部隊のバックヤードでは、ひたすら見積書の作成に追われる「見積り地獄」のようなことが起こります。コピー機のカタログをペラペラめくりながら、細かくオプションを調べて、お客様の要望と照らし合わせ、エクセルに入力。さらに、適用できる値引率を計算して…。そういった作業を何回も、何十回も繰り返します。時間がめちゃくちゃかかりますし、転記やオプションの組み合わせでのミスが頻発するんです。
これを解決するために私が使ったのがエクセルマクロでした。当時、見積書のひな型はエクセルで作成されていました。それをそのまま使えれば、作業工程は従来通りのままで効率をあげることができます。今でも、見積書をエクセルで作成している会社は多いと思います。エクセルは日々の仕事に浸透していますから。これまで使い慣れたひな形をベースに生産性をあげられるのはエクセルマクロの利点ですね。
当時完成させたのは、機種とお客様が希望する条件をいくつか選べば、自動的に見積りができあがるマクロでした。くわえて、お客様の希望価格を入力すると、「適用される値引き率」が表示されます。その金額に応じて「これは課長決済が必要」「こっちは部長決済が必要」という情報まで出るようにしました。適切な決裁者がわかり、無駄な手戻りが発生しなくなる設計にしたわけです。それに『見積ナビ』という名前をつけ、社内外に配布しました。
――それはすごいですね!
寺澤:これはかなり大きな業務改善でした。それまでミスが多かった見積り業務が、社内外のどんな人でもミスなく完遂できるようになったのです。仕事の手間は大幅に削減できました。
とにかくエクセルの事務仕事を日常的にしている人には「エクセルマクロという機能がある」ことをまず知ってほしいですね。「こんな機能があって、こんなことができる」と知るだけでも、自分の作業が楽になる糸口が見つかるかもしれませんから。
1976年、大阪府生まれ。灘高校、東京大学経済学部卒業後、日系メーカーで17年間勤務。経理や営業、マーケティング、経営企画などに携わり、独学で覚えたエクセルマクロを用いて様々な分析や業務改革を行う。2017年、GAFAの日本法人のうちの1社へシニアマネージャー(部長)として転職。これまでエクセルマクロを用いた業務改善などで数多くの社内表彰を受けている。手作業では不可能なほど大量のデータを、短時間で分析しやすく加工したことが評価され、社内エクセルマクロ講習会の講師として延べ200人以上に講座を実施。エクセルマクロについて1から10まで教える詰め込み型の学習ではなく、仕事に必要な部分だけを効率的に学べる講座として満足度98%の高い評価を受けている。