ホテルと学校の共通点って!?
星:コーポラティブハウスから出発したUDSですが、その他の事業形態についても教えてください。
黒田:コーポラティブハウスは、民事再生の後、独立した会社の方々が今も継続してくださっています。
現在手がけているのは、ホテル、飲食店、学生食堂、学生寮、シェアハウス、コワーキングスペース、アフタースクール、アンテナショップ、ミュージアムなどです。
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書。
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星:ホテル事業はいつスタートしたのですか。
黒田:2003年です。
惜しまれつつも昨年閉館した目黒のホテル「クラスカ」が最初でした。
老舗ホテルをリノベーションしたデザインホテルで、当初の客室は9室のみ。他は長期滞在のレジデンスとワークスペースでした。
その結果、ホテルのゲストや住んでいる人、働いている人が階下のレストランにくるようになり、またトリミングサロンなどを設けることで近隣の方が立ち寄る場になって、ホテルを中心としたコミュニティが生まれたのです。
星:やはりキーワードはコミュニティなんですね。
黒田:すべての事業は「いいまちにつながる場づくり」と位置づけていますから。
ホテル事業においても、ホテルをそんな場所にしたいという思いがあります。
星:具体的にどうつながりますか。
黒田:ホテルができることで、地元の人を雇用し、地元の作家さんと家具をつくり、地元の農産物を使う、というようなことができます。
また、ホテルのゲストは地域の店舗を訪れます。
それによって、ホテルを拠点とした地域内の経済循環が生まれ、ホテルがそのハブになれます。
この点を意識して、「住む」「働く」「食べる」「学ぶ」「遊ぶ」といった私たちが手がける他の事業と重ね合わせながら、本質的な意味での豊かさを実現していきたいですね。
星:面白いですね。そしてびっくりしました。
私が学校についていつも言わせてもらっていることとまったく同じなので。
学校も昔、地域のハブだったんです。
先生たちがそば屋から出前を取ったり、うちの親なんか花屋だから、卒業式の花を届けたり。もちろん子どもたちはそこで勉強・生活し、親たちは学校行事をサポートして。
学校は地域コミュニティのハブだったんですよね。
黒田:確かにそうですね。
星:ところが、社会の変化とともに、次第に学校のハブ機能はなくなっていきました。学校だけの問題ではなく、先進国ではコミュニティの形骸化が進んだんです。
しかし、そんな時代だからこそ、地域のハブとしての学校が見直されてきているし、これからも見直されていくだろうということを、私はいつも言っているんです。
だから、ホテルにも同じような機能があるというのは大変共感できますし、勉強になります。
世界がワクワクするまちづくり
星:UDSがまちづくりにコミットしていく姿勢はもちろん感銘を受けるところですが、コミュニケーションは双方向的なもののはずです。
建物をつくる側だけでなく、使う側の動きがないと、最終的な目的を達成できないですよね。
読者の方が一個人として、まちに関わろうというとき、どんなことができますか。
黒田:よく言われる議論ですが、「公共:パブリック」と「私:プライベート」という区別がありますね。
自分の家は「私」で、一歩外へ出るとすべて「公共」と、はっきり分けてしまうと、道路が汚れていようが、敷石が外れていようが、それは公共の人がやる仕事で自分とは関係ないということになってしまいます。
このような「公共:パブリック」と「私:プライベート」の間に、「共有:コモン」があるとする考え方があります。
このコモンはパブリックでもない、個人のものでもない空間。そういう空間や意識をまちの中に広げていくのが大事じゃないでしょうか。
そうしたら、例えば、自分の家の前だけではなく、みんなが通る道にも意識が向いていくと思います。そういう、昔は当たり前だったことがだんだん失われていますよね。
星:パブリックとプライベートの間をどうやって分厚くするかというところで、UDSも私たち一人ひとりもそのコモンを増やすことに貢献できるといいですね。
黒田:建物のつくり方にもよるところはあると思うので、建築の力でできることも多いと思います。
そして、その場でどういう活動をするか、場をどう利用していくのか、運営も非常に大事です。
星:UDSの出番じゃないですか。
黒田:ええ。企画、設計、運営まで一体的に行えるのが私たちの強みですから。
例えばホテルでも、共有スペースをつくるより客室をつくったほうが、数字にはなるんですが、そういう思考ばかりでは本質的な意味での豊かさは実現できないと思うので、追求していきたいですね。
星:経済原理に従って何かの指標に変換した瞬間、どうしてもそれではすくい取れない部分が出てきます。数値や指標を追いかけすぎると、本来のコンテクストを忘れ、すくい取れない部分が、あたかも最初から存在しないかのように考えてしまう危険性もありますね。
黒田:同感です。
星:最後に、読者の方へのメッセージはありますか。
黒田:UDSでは多岐にわたる事業を手がけ、その企画、設計、運営まで手がけています。そうした会社は世界的にもめずらしいと思うのですが、その独自の強みを生かして、人々が生活するまちをよりよいものにしていければ、そうすることでよりよい社会に貢献できればと活動しています。どんな場をつくったとしても、そのまちをつくっていくのは「人」なので、この記事がご自身のまちやコミュニティに目を向けたり、考えたりするきっかけになったらうれしいですね。
星:いいですね! 夢が広がるなあ。