AIと本質的な棋力は関係がない

 藤井にとって「天敵」ともいえる存在が、豊島将之二冠だった。今年の6月時点での成績は1勝6敗と大きく負け越していたが、その後、王位戦では4勝1敗で豊島を退けるなど、今年に入ってからは7勝3敗。早くも天敵とは言えなくなっている。豊島は一時期、対人研究を封じてAI研究に没頭した。藤井に勝つには、人間相手よりもAIを使った研究のほうが良いのだろうか?

豊島将之二冠(左)と藤井聡太二冠(右) Photo: JIJI豊島将之二冠(左)と藤井聡太二冠(右) Photo: JIJI

 しかし、谷川はAIが「藤井キラー」になっている要因ではないとみる。

「豊島さんは棋士になるのも早かったし、20歳でタイトル挑戦もしていた。本来、もっと前から今のような活躍ができた棋士です。だから藤井さんに勝つことは全く不思議ではないのですよ。ただ以前、電王戦(人間対AIの団体戦)の第3回で、トップ棋士の中で彼だけが勝利したことは、AIに没頭するきっかけになったかもしれません。20代半ばで何度かタイトル戦に挑戦して跳ね返され続けて試行錯誤する中で、ソフトの研究に時間を費やしたのでしょう」

 藤井自身、AIについて「序中盤の形勢判断などで力になった部分は大きいとは思いますが、考える候補手、拾う手が若干増えたかなという印象はあります。ただ、はっきりと違いを感じるものではないです」と話している。谷川は著書で「藤井さんの強さは、最善手を求める探求心と集中力、詰将棋で培った終盤力とひらめき、局面の急所を捉える力、何事にも動じない平常心と勝負術など極めてアナログ的なもの。将棋ソフトを使い始めたのはプロデビューする直前であり、彼の本質的な強さはAIとは関係がないと言っていい」としている。