筆者も長い記者生活でさまざまな事件の公判を傍聴してきたが、実は「過失罪」については被告が心から真摯(しんし)に反省し、遺族に贖罪(しょくざい)を訴え出れば「寛大な処置を求めます」と、上申書に一筆を入れてもらえるケースも少なくない。

 だが、拓也さんは「あなたは人間の心を持っていない」「刑務所に入ってほしい」と峻烈(しゅんれつ)な言葉を浴びせ続けた。真菜さんの父、上原義教さん(63)も「(飯塚被告は)申し訳ないと繰り返しているが、そういう問題ではない。2人の写真に(起訴内容を)『きょうは認めてくれればいいね』と語り掛けている」と声を詰まらせ、傍聴席からはおえつも漏れた。そう、遺族の憤りは愛する家族を奪われたことと同じぐらい、その事実と向き合わない飯塚被告の傲慢さに向けられているのではないか。

トヨタ、霞が関、検察による
飯塚被告への包囲網

 公判最中の6月21日、トヨタは「(検察に対する)調査への協力の結果、車両に異常や技術的な問題は認められなかった」とするコメントを発表した。全国紙社会部デスクによると「飯塚被告の主張が変わらず、ユーザーに安心と安全を伝える必要があった」と説明したという。

 普通、直接公判に無関係の企業がこうした声明を出すのは珍しい。冒頭「プリウス」と車種名を表記したのはそれが理由だ。工業技術院・元院長という霞が関の技官トップ経験者が、看板商品を「欠陥品」と主張し続けている。黙っているわけにはいかないのは当然だ。

 これに呼応する形で、国土交通省は22年7月以降に発売される新型車に、事故発生時のアクセルやブレーキの運転状況を記録する「イベントデータレコーダー」(EDR)の搭載を義務付ける方針を固めた。事故原因の究明に活用する目的だが、言うまでもなく今回の事件がきっかけだ。

 前述の社会部デスクは「国交省は穏やかに『事故原因の究明』と説明していますが、明らかに『理不尽な言い逃れは許さない』という意思表示でしょう」と解説する。霞が関の後輩たちも飯塚被告の主張を放置できない、と憤っているということだろう。

 検察側の本気度もうかがえる。求刑した禁錮は懲役と違い、塀の向こう側に落ちても刑務作業に従事する必要はない。刑事訴訟法では、実刑判決を受けても「刑の執行によって著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできないおそれがあるとき」「年齢70年以上であるとき」など(女性の場合は妊娠なども対象)は、刑の執行を停止できると定めている。