『御社の営業がダメな理由』『社畜のススメ』など累計40万部を超える著書を持つ営業改革・マネジメントコンサルタントの藤本篤志さんの新刊『営業の新PDCA大全』は、まさにコンサルタントのノウハウを全公開した一冊。無数の営業部を知り尽くしたコンサルタントしか知りえない驚きの問題点と、その解決策、改善策が詰め込まれています。コロナ禍によって、日本中の営業部がそのやり方を再考せざるを得なくなっていますが、藤本さんは、営業を立て直すにはPDCAをきちんと機能させることが効果的と言います。しかし、長年沁み込んだ惰性的な慣習、自分だけはこのやりかたでいいだろうという怠慢、本当に担当者の実力なのか、実は誰でも売れたのかといった評価の難しさなど、さまざまな営業部ならではの落とし穴がPDCAの適切な運用を阻んでいます。藤本さんによる「営業部に特化した新PDCA」のポイントを明快に解説します。

利益目標の落とし穴Photo: Adobe Stock

利益目標を重視する際の注意点

 利益目標を重視し、売上目標を指標として設定していない営業部をよく見かけます。たしかに利益目標は、会社にいくら儲けさせたかの指標なので、とても重要です。しかし、うまく運用しなければ諸刃の剣になりかねない厄介な指標だということが、コンサルティングの経験上わかっています。

 少なくとも、二つのデメリットがあります。

 一つは、1件でも受注を増やして売上げを伸ばす努力よりも、小手先の原価低減に注力し、減収増益という結果を招きやすい、という点です。減収は、同業他社につけ入る隙を与えるリスクを示唆しています。長い目で見れば、同業他社を育てる結果となり、会社の成長にブレーキをかけるおそれがあります。

 もう一つは、少しでも利益計算を複雑にすると、営業社員の成績換算計算が複雑になり、目標管理が面倒になります。「これを受注すれば目標達成だ」とわかりやすければ火事場の馬鹿力が出る商談シーンでも、「これを受注すれば目標達成かもしれない」では、その推進力が半減してもおかしくありません。

 私はサラリーマン時代、受注形態が少し複雑になってきた現状を鑑みて、「受注件数のカウント方式を、売上額に応じて小数点表示にし、差を付けてはいかがでしょうか?」と社長に提案したことがあります。それに対して社長は、「目標設定はシンプルでわかりやすくすることが大切で、業績拡大に大きく影響する。これは1.3件か? 0.9件か? と計算が複雑になってすぐに判断できなければ、目標達成の実感が出づらくなるだけだ」と教えてくれたのです。

 当時は、「会社を成功させた人の考えだから、その判断を信じたほうがよさそうだな」くらいの感覚でしたが、いま営業コンサルタントとして数多くの営業部の実態を分析するようになって、その含蓄の深さを実感しています。

 以上、二つの理由から、利益目標のみを重視する方針よりも、売上目標との併記型をお薦めします。そのほかに、受注件数目標、ポイント目標、自社独自目標等をうまく併用することで、営業社員の活躍の場をいっぱい用意することがコツです。