イノベーションをもたらすカギは「解放」
ジャン・リブキン教授(ハーバード・ビジネス・スクール)
私は、国の競争力と、企業に競争上の優位性があるという意味には、非常に異なった面があることを指摘したいと思います。
企業の競争上の優位性とは、コストと顧客が支払いたい金額の間にどの程度の差があるかで規定されます。
一般的に、そのような競争上の優位性のある企業が存在する国では、企業が非常に生産的になる傾向があります。しかし、その競争優位性のある企業が参入を抑止し、競合企業を排除して、その繁栄を広げなければ、国家の競争力を損なうことにつながります。
米国のバイデン政権下における競争力は、ワクチン投与が普及する2021年第3四半期以降の状況に焦点を当てる必要があると思います。そこでは、単一の予測ではなく、3つのシナリオを描いています。
第1のシナリオは、停滞を続け、基本的にトランプ時代の状況に留まってしまいます。
第2のシナリオでは、トランプ以前の時代の状況に回帰することで、ある程度の成果を獲得できると考えられます。
そして第3のシナリオは、米国経済の再創造です。オバマ時代の回帰に加えて、必要な社会インフラや政治制度の改革に着手します。セーフティネットの拡充、再教育による労働者スキルの向上、インフラへの再投資、政治的停滞を解消するための政治改革が推進されるシナリオです。米国人たちは、COVID-19の災禍を通じて経済の真の弱点を理解し始めています。それをテコに、更に改革を進めるシナリオです。
第3のシナリオは、ある意味、日本モデルです。私は日本を理想化しているのかもしれませんが、日本の問題なのか、それとも強みなのかという点に話を移しましょう。
マクロ経済要因では、社会インフラ、政治制度、財政・金融政策に分けられますが、日本の社会インフラはすばらしく整備され、その効果が広く共有されています。金融政策と財政政策では、財政面で負債が異常なレベルに達していることは事実ですが、繁栄が共有されていると思います。つまり、米国で見る不平等のレベルには達していません。
しかし、GAFAMのような企業の出現は米国の競争力の1つの証拠です。日本には誕生していません。したがって、競争力上の弱点だと言えます。これは日本経済への批判の最たるものですね。
企業にイノベーションをもたらすには、最高のタレントを引き付け、彼らに最高の仕事をしてもらうために解放(自由に)することです。事業環境上のミクロ要因では、労働移動性の欠如にあたります。日本企業は失敗や個人主義に対する寛容さが少なく、イノベーションの欠如につながります。
人口高齢化による労働力のスキル不足のような古典的な課題もあります。
しかし、将来の経済成長をイノベーションに求めるなら、イノベーションを起こす強いインセンティブを持つ個人が必要であり、米国のシステムにはそれが備わっています。ただ、これにはたくさんの課題(荷物)もついてきます。
もしもうまくいけば、イノベーションの推進と繁栄の共有という2つを達成する世界を見ることになるでしょう。