グレーエリアの意思決定アプローチで
不確実性に対処する
ジョセフ・バダラッコ教授(ハーバード・ビジネス・スクール)

 重要な意思決定が先送りされがちなのは、不確実性が高く、正解が必ずしも明らかでないグレーエリアの問題だからです。

 つまり、複雑で不確実性が高く、十分な知識・経験のある人々の間でも何をすべきかについての意見が異なるような深遠な問題です。多くの場合、法的、倫理的な側面もあります。

 このようなグレーエリアの意思決定のために私が提案するアプローチは、(1) いくつかの選択肢を特定し、(2)それぞれの帰結を考える、そして(3)以下のような5つの問いを発して、それぞれに答えていく、というものです。

 <1>どのような帰結が本当に重要なのか
 <2>どの義務が本当に重要なのか
 <3>何がうまくいくのか
 <4>我々は何を体現しているのか
 <5>後で振り返ったときに私は何を誇りに思うか

 そこでは、私が「封筒の裏アプローチ」と呼ぶ簡便法を用いることが大切です。具体的には、“判断力”や“直感”に頼って、少数の基本的項目を書き出します。例えば、いくつかの選択肢があるとして、それぞれの短い主たる帰結を書き出します。そして、このプロセスを1人ではなく、他の人と行うことを勧めます。なぜなら世の中は複雑で、リーダーが1人で行おうとすると間違うことも多々あるからです。

 他者への責任を考慮するのも、どんなことがうまくいくかを検討するのも、あるいは組織の価値観(我々は何を体現しているのか)を考えるときも同様です。使用済みの封筒を取り出して裏返し、同じことをするとよいでしょう。

 それぞれの問いに対する答えを“判断力”や“直感”を使って書き出し、他の人々と話すのです。自分の最初の判断を過信してはいけません。間違っている可能性があるからです。だから他のシニアメンバーを関与させたり、より重大な問題については、このプロセスを二度三度と繰り返したりすべきです。

 時間の経過とともに無意識下で何かが働き、対話のためのミーティングの後に新しいパースペクティブが出てくるかも知れません。

 つまりキーワードは「封筒の裏、判断力と直感、そして対話」です。もちろん封筒の裏でなくても、ホワイトボード、パワ-ポイント・スライド1枚でもよいのですが、まず理論的な複雑性を排除して、本当に大事だと思うことに絞って考える枠組みを得ます。

 そうすることで、少なくとも全体像を見ているかどうか、何を理解しており、何が重要な不確実性なのかといったことを確認できます。

 新型コロナウイルスにどう対応すべきかは、グレーエリアの意思決定として格好の事例でしょう。オフィスや工場をどうやって安全に再開するかを多くの人が考えていますが、まだこのウイルスについて分かっていないことがたくさんあります。

 だからといって再開について考えられないというのではなく、何が最大のリスクで、その帰結は何か、我々は誰に対して健康安全上の責任を持っているのかを列挙し、プラクティカルに何ができるかについて対話を通じて考えるのです。

(連載2につづく)