ハーバード教授3人が語る「コロナ禍での経営」、不確実性に対処する行動指針Photo:PIXTA

先が見えない時代。ゲームのルールは変わり、もはや成熟した日本の企業は、大半が従来のビジネスモデルのままで生き残れるか不透明な状況である。そんな中、我々は新型コロナウイルスによる経済危機に直面する。コロナ禍が示唆したことは、「平時の体制は、有事に全く役に立たない」ということであった。では、有事における最善の経営方式とは、どのようなものか。また、どんな行動規範、業務内容、業務環境が必要なのか。世界を代表するビジネススクールの教授の皆さんに、今後の舵取りへの示唆を伺った書籍『有事の意思決定 一枚岩の経営チームがリードする』。本連載の第1回では、マクロ的経営環境の変化における企業経営者の行動と意思決定の指針を提示する。

政治的な不安定性の拡大も不確実性を増幅
企業経営者は民主主義の安定性に支援を
デビッド・モス教授(ハーバード・ビジネス・スクール)

 今回のコロナ禍による経済危機は、ウイルスへの恐怖とそれと関連するソーシャルディスタンス規制などで、消費者が店やレストランに通うのを恐れたり制限されたりしたことから生まれたものです。今後、ワクチンが配備され、誰もが再び外出しても安全だと感じたら、経済は非常に急速に反転するでしょう。

 しかし、落とし穴があります。注意しなければ、この異常なパンデミックによる危機は、大恐慌のような、より標準的な需要側の危機を引き起こす可能性があります。

 労働者が職を失い、企業が一時的に閉鎖を余儀なくされる中で、経済が減速するにつれて、長期的な経済悲観論が根付く可能性があります。さらに、様々な債務者が債務不履行となり、金融危機を引き起こし、ひいてはさらに深い経済的悲観論に陥る可能性があります。

 だからこそ、個人と企業の両方で、最も大きな打撃を受けた人々や企業に、確実に支払いができるように、人道的見地及びマクロ経済的見地から幅広い救済を提供することが不可欠です。

 また、金融システムに対して、可能な限り流動性と安定を保つためには、中央銀行からの巨額の流動性の供給も不可欠です。

 深刻な需要側の低迷の兆しが見え始めた場合、例えば、ワクチン接種後も、需要の急回復が生じず、将来に対する期待が悪化した場合などは、直ちに新たな財政刺激策を導入できるように準備しておく必要があります。

 需要が不安定になり、金融ドミノが崩壊し始める可能性がある中、企業経営者は経済と政治的なボラティリティの両方に備える必要があるといえます。

 世界金融危機以降の財政・金融債務の大規模な拡大に対処することは、予想以上に困難であり、この1年でさらに劇的に、より難易度が高くなります。

 そのため、企業経営者は、起こりうる不況への移行など経済的混乱に備える必要があります。また、世界中のポピュリズム政治運動の台頭や、世界経済統合や国際機関に対する攻撃など、政治的なボラティリティが継続することに備える必要もあります。

 同様に重要なことは、私たちは皆、自分の役割を果たさなければならないということです。先進国では、経済機構だけでなく政治制度も、中核的な制度を強化するためにできる限りのことを行うことを意味します。

 民主的な政治システムと市場経済の強化に関しては、企業経営者はただ傍観者になることはできません。

 企業経営者は、私たちの最大の社会的課題に対処し、最も重要な経済・政治機関を保護し、強化するために、立ち上がり、建設的な役割を果たすことが不可欠です。私は非常に希望を持ち続けていますが、建設的な行動が最も必要です。