近年、会社や事業を取り巻く経済環境の変化が激しくなったことで、素早い決断や行動がこれまで以上に求められる時代になった。いつまでも決定を先延ばしにしていると、ライバルに先手を取られたり、あっという間に世の中の動向に後れをとったりしかねないからだ。
しかし、必要な情報を収集して頭を整理しても、いざ決断・実行の段になると一歩を踏み出すのが難しいのも事実だ。「行動しようと思っても、つい迷ってしまう」「やるべきことをためらいがちだ」という悩みを抱えている人は多いだろう。
そこで参考になるのが、誰でも「即断即決、即実行」ができるようになる効果的なコツをまとめた『ゼロ秒思考[行動編]』(赤羽雄二著、ダイヤモンド社刊)だ。本書は、累計34万部を超えるベストセラー『ゼロ秒思考』で紹介した「メモ書き」をベースに、ビジネスパーソンの「行動力」を高めることに力点を置いた1冊で、いまの時代に必要不可欠なスピード感のある「決断力」と「実行力」を身につけるためのノウハウを丁寧に解説している。
SNSでは「今すぐ行動できるようになった」「自分の成長を感じられる」とトレーニングの効果を実感している人々の声が相次いでいる。
今回は 『ゼロ秒思考[行動編]』より一部を抜粋・編集して、「即断即決、即実行」につながる「全体観」とはどのようなものかを解説する。(構成/根本隼)

「行動力がない人」に欠けているたった1つのものとは?Photo:Adobe Stock

「行動力がない人」に欠けているものとは?

 結論から言うと、即断即決、即実行ができない根本的な理由は、対象への正しい「全体観」を持てていないことだと考えている。逆に、「全体観」さえ持てれば、あとは必要なときに、自然と即断即決、即実行ができるようになる。

「全体観」という言葉の意味するところを、いきなり理解してもらうのは難しいかもしれない。

 たとえば、夜に真っ暗な道でほとんど前が見えないのに、自転車で高速で走るのはとても危険だ。しかし、ライトをつければある程度安心して走ることができる。さらに、街灯がついていて、一本道で数10メートル先まで見通せるようなときは、かなりのスピードで走っても安全だし、怖いと思うこともない。

 全体を見渡すことができれば安心して前に進むことができるが、見渡せなければ怖くて一歩も動けなくなってしまう。本人の性格がどうか、役割がどうかといった問題ではなく、全体観の有無が、行動できるかどうかを決定する要因になるということだ。

全体観を持つと重要なポイントがわかる

 違う説明の仕方をすると、正しい全体観を持つとは、自分が取り組む仕事や課題の全ての道筋やプロセスが見えており、どこが重要なポイントかを理解していることだ。どのような問題が起きそうで、それがどのくらい深刻かもしっかりと認識している。

 道筋やプロセスがどのように選択肢として分かれるのか、それがどのように変化するのかということもつかめている。部分ではなく、一面ではなく、空間的に、時間的に全体が見渡せている。「そんなことができるのか?」と思うかもしれないが、皆さんは日々そうした場面に接している。

 たとえば、アパレルショップに服を買いに行ったとき、ベテランの店員さんとやり取りをするとしよう。その際に店員さんはあなたからの質問や要望に対して、多くの場合、まさに即断即決、即実行という感じで、答え、動いてくれるはずだ。できる人なら、さらにうまいタイミングで、手に取った服を買いたくなるようなひと言をそえてくれるだろう。

 このとき、経験を積んだ店員さんには、あなたがどのような質問をし、要望を出すのか、それにどう答え、どう動くべきか、何が問題になる可能性があるのか、ほとんど見えている。接客、販売という仕事への全体観を持っている。

 あなたの仕事でも、事務やプレゼンなどの一部に限れば、その全体観が見えており、即断即決、即実行ができると言えるものがあるはずだ。

失敗が減り、成果を出すまでのスピードも上昇

 全体観を持つことは、即断即決、即実行を可能にするが、それ以外のメリットからも、特に組織のリーダーには欠かせない能力となっている。

 全体観を持てば、おっかなびっくりではなく、一定の確信のうえで判断できるようになる。表面的な業務の流れだけでなく人間関係を含めた全体を見ているので、部分最適の解にとらわれることなく、ベストな案を選択できる。失敗も少ない。当然、検証の手間も短縮され、成果を出すまでのスピードも大いに上がる。

 こうなると余計なストレスが生じないので、精神的な疲れもはるかに少なくて済む。エネルギーの大半を本当に大切なことに振り向けることができる。力を抜いてもよいところが分かっているのでいつも余力があり、後でトラブルが発生しても確実に対応できる。

全体観を持つリーダーを育てなければならない

 こうした全体観と、そこから生まれる精神的な余裕はリーダーとして非常に重要な条件だが、果たしてどれくらいの人が備えているだろうか。

 企業としては、広い全体観を持つリーダーを育てることが、最も重要な事項といえる。全体観があるリーダーでなければ即断即決、即実行ができず、他者に大きく遅れを取ることになる。

 リーダーは、リーダーとして他人に頼られる経験をするなかでさらに成長するものだから、会社はできる限り早期に、少しでも全体観を持つ人間、持てそうな人間を見出し、経験を積ませる必要がある。当然、社員も少しでも全体観を持とうと努力しなければならない。

観察力・洞察力も重要

 また、全体観に繋がる、より具体的なレベルの能力としては、「仮設構築力」「情報収集力」「観察力」「洞察力」などがあると考えている。

 全体観を持っている人は、レベルにバラつきがあるにしろこれらの能力を備えている。自分が今どこにいて、どういう状況か?目の前が、全体がどうなっているか?仮説を立てつつ情報を収集し、偏見を持たずに観察し、見えないところも読み通すことで、全体を見渡すことができる。

 この本は、全体観を身につけ、即断即決、即実行できるようになってもらうためのものだから、そうした能力も必然的に底上げされることになる。