巨額の年俸を受け取れる理由は明快だ。預かった資金約13兆円を年利10%で回せば、それだけで1.3兆円が稼げるからだ。単純計算でレイ・ダリオ個人への成果報酬10%とするなら、年俸は1300億円になる。ヘッジファンドの一般的な報酬は、預かった資金の残高に対する年間2%の手数料と、運用で儲かった分の20%が成果報酬と言われる。投資家にすれば、年間で10%を超えるリターンを得られるなら、トータルで20%を超える運用コストなど安いものなのだろう。運用の“天才”に託すべく世界中から集まる資金が、スウェーデンやギリシャの国家予算を大きく超える規模であることがその証しだ。レイ・ダリオは資産運用のための情報収集や分析・研究のために年間で数千億円以上を投じていると公言しており、何から何までケタ外れの世界である。

 ちなみに日本の上場企業の2021年3月期の営業利益ランキング(決算内容が特殊なソフトバンクグループを除く)では、一位のトヨタ自動車が21.9兆円で、2位のNTTが16.7兆円、3位のKDDIが10.3兆円だから、ブリッジウォーターは4位に相当する規模だろうか。

怪しいと思われていたヘッジファンドが
リーマンショックで変貌を遂げる

 では次に、ヘッジファンドが絶対収益を追求するスキームと戦略を、ヘッジファンドの概要と変遷とともに説明しよう。

 そもそもヘッジファンドは、ハーバード大学出身の社会学者であるアルフレッド・W・ジョーンズが1949年に、空売りの手法を使って価格変動や為替、金利などの市場リスクを「ヘッジ(回避)」しようと創ったファンドが第1号だといわれている。株式のロング(買い)とショート(売り)を同時に保有することで、相場の上げ下げにかかわらず、利益を追求しようという手法を用いたのである。

 この空売りという手法は単なるリスクヘッジのための投資テクニックに過ぎないのだが、ヘッジファンドといえば、「空売りで価格を下落させて儲ける怪しい存在」という誤ったイメージが世間に流布してしまったことも否めない。

 だが、2008年のリーマンショックで状況は一変する、「伝統的資産」と呼ばれた株式や債券などの金融商品が軒並み下落したことで、単純な分散投資では資産を守り切れないと判断した機関投資家の資金が、相場に左右されないヘッジファンドに向かうようになった。

 かたや、「パフォーマンスは高いが得体が知れない」と思われがちだったヘッジファンド側も、運用資金獲得のため、運用の透明性を高め、リスク管理を強化するなど、機関投資家の求める信頼できる体制づくりに励むようになった。