日本のものづくりは、
独自の美意識によって発展してきた

人間が本能的に持っている<br />「美」への探究心が、<br />社会にもたらしたものとはPhoto: Adobe Stock

「機械」の「機」を訓読みすれば、織機を指す「はた」になりますが、これは偶然ではありません。

 そもそも美しい織物を織るための道具として誕生してきたのが「織機」であり、それが動力式の機械になり、現代文明を形づくっているテクノロジーへと進化してきたのです。

 ただ、私たちはそうした「美」を追求し、自らを拡張してきたことを忘れてしまっています。その結果、あらゆる工業製品に魅力がなくなり、日本の製造業の勢いが衰えてしまっているのです。

 本来、日本のものづくりは独自の美意識によって発展してきました。

 例えば、きものの紋様は季節の風景をうつしとったものが多く、自然を表す色も、世界でも随一の種類の多さです。食材にしても、「はしり、さかり、なごり」と旬を細かく楽しむ風習があります。

 日本人ほど、自然から生まれた美意識にこだわる民族はいないのではないでしょうか。

 きものの例をもう一つ挙げると、西洋の衣服はどんなに美しい生地であっても、それを細かく裁断し、立体にして人間の体に合わせた加工をします。

 それに対して日本のきものは、生地そのものを生かし、布を体に沿わせるように着る設計になっています。日本では、自然に近い状態こそが、最も美しいのです。

 英語の「nature(自然)」の反対語は、「culture(文化)」だと言われ、欧米では自然と文化は、正反対であるという認識が一般的です。

 これに対し、日本語の「自然」に対する反対語は、「人工」もありますが、「不自然」です。それは、調和がとれていない状態、混沌とした美しくない状態を指します。

 日本が再生し、いままで以上に世界から求められる存在になるためには、こういった日本人が育んできた独自の「美意識」と、その表現である工芸の思考をもう一度見直し、創造性のヒントにするべきだと思うのです。

細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。