人気の河野氏、あおり上手だが「突破力」はない

 岸田氏の対抗馬とみられている河野氏は、世論で最も高い支持を集めている。SNSを駆使した発信力に定評があるだけではない。発想が豊かであり、社会の変化に鋭敏な感覚がある。時には、「脱原発」「選択的夫婦別姓賛成」「女系天皇容認」など、自民党の方針よりも踏み込んだ考えを表明する。伝統にこだわらず、日本社会を持続させるためにどうするかを考える合理性がある。

 河野氏は、多くの人が反対するような政策を実現する「突破力」があるとも評価されるが、私はそれには同意しない。むしろ、「突破力」に欠けている。「突破力」とは、威勢のいい言葉を並べればいいのではないからだ。

 政策を創るためには、多くの官僚や専門家の協力を得なければならない。国会で過半数が賛成しないと法律として成立しないので、多くの議員を説得して賛同者を増やさねばならない。地道な作業を粘り強く続けることこそが、「突破力」だ。

 ところが、河野氏は政界で一匹狼といわれ、官僚には厳しいという。河野氏が仲間を募り、官僚と協力して難しい課題に粘り強く取り組み、遂に実現した事例を思いつかない。

 河野氏が、行革・規制改革担当相として行ったことは、国民から「縦割り行政」の弊害の具体的事例を通報してもらう「縦割り110番」という窓口を設置することや、「行政の無駄」として全省庁で「ハンコ」を原則禁止にするなどだった(第254回)。

 これらは、大事なことではあるが、大臣が陣頭指揮してやることとは思えない。役所であれば、部長あたりが音頭を取れば、できることだ。また、SNSを駆使して、官僚や特定の業界を悪者にして、国民の感情をあおって改革を実現しようとするのは、首相を目指す政治家がとるべき手法ではない。

 河野氏は、自らの弱点をよく自覚してはいる。かつて主張した「脱原発」「女系天皇」を封印したのは、党内に余計な敵を作らないようにしようということだろう。河野氏は変わるのか。変わるとすれば、それは「真の改革派」なのか、長老の覚えめでたい政治家なのか、どちらなのだろうか。

 河野氏は、「厚労省分割」などの行革や、5Gネットワークの構築など成長戦略を打ち出している。現職閣僚として、今の政策課題をよく理解していることを示しているが、問題は実行力である。このような難題をどういうプロセスで実現するのかを示してもらいたい。まさか、SNSで国民に支持されれば実現できるとは言わないだろう。