保守派の高市氏、男社会での処世術が逆にあだになっている?

 高市氏については、もったいないなという印象を持っている。高市氏は「同性婚反対」「選択的夫婦別姓反対」「女系天皇反対」などの主張を打ち出し、安倍前首相の支持で総裁選に出馬し、保守派の代表として台頭した。

 だが、高市氏が根っからの保守だとは思えない。保守的な言動は、男社会の政界で、女性として生き抜いて出世していくための一つの道なのではないか。

 高市氏の保守的な立場が強調される一方で、経験豊富で実務能力が高い政治家だとはほとんど語られない。総務相としての在任期間は、歴代最長だ。通信政策、サイバーセキュリティー、デジタル化に精通しているし、総務省という巨大官庁を動かしてきた。コロナ禍で明らかになったデジタル化の遅れへの対応は、日本が最優先に取り組まねばならない課題だが、高市氏は岸田氏や河野氏よりも、着実に改革を進めることができるだろう。

 あえて言えば、総裁候補の中で、日本が一番変わる可能性があるのは、高市氏が首相になった時だ。ただし、保守派が望む古い伝統を取り戻すという意味ではない。

 高市氏は首相になれば、保守ではなく、現実的に政策を進めることになる。政権の運営は、社会の変化、国民のニーズに現実的に対応せざるを得ないからだ。安倍首相は、「女性の社会進出」「移民政策」「全世代社会保障」など、社会民主的な政策を実行した(第218回)。高市氏も同じである。

 なによりも、「日本初の女性首相」の誕生が日本社会に与えるインパクトは絶大だ。女性が首相になれば、企業や官僚組織のトップや幹部に女性が次々と起用される。社会のあらゆる場面で女性の進出が劇的に進んでいくことになるのだ。

 現在のところ、高市氏は、総裁選では3位だとみられている。保守派の代表として台頭することができたが、それがあだとなり首相の座には届きそうにない。もったいないことだ。