塚本氏はサークルKサンクス出身で、取締役に残り続ける数少ない現場派幹部であり、プロパー社員からの信任も厚いという。つまりファミマ社内では、サイネージによって「伊藤忠vsファミマ」という形の利益を巡る暗闘が始まりつつあると予想されているのだ。

 しかし、伊藤忠サイドも必ずしも一枚岩ではない。伊藤忠関係者が声を潜めて語る。

「サイネージ事業を進めているのが細見さんの出身母体である第8カンパニーです。ここはかなりの異色部署で、細見さんを本体社長にするためには手段を選ばない“過激派”と伊藤忠の社内では揶揄されています。サイネージのような打ち上げ花火を上げて、細見さんの加点につなげようとしているのは明白です。責任と後始末はファミマの現場に押し付ける。商社としてあんなやり方が許されるのか、と伊藤忠内部での疑問の声は根強くある」

 過激化する細見派(伊藤忠・第8カンパニー)によるファミマ侵攻と、水面下で抵抗を画策するファミマプロパー派の対立。こうした図式が生まれる背景にはお互いの価値観の相違がある。

 伊藤忠サイドは、細見社長が自ら語っているようにコンビニ事業は頭打ちと見て「新規事業」に活路を見いだそうという考えだ。サイネージだけではなく、24年までに1000店舗導入を計画している無人店舗(無人決済コンビニ)もその一つといえる。細見派としてはファミマでデジタルトランスフォーメーション(DX)の先鞭をつけ、「本体社長就任への花道を飾りたい」(前出・伊藤忠関係者)という思惑があるとされる。

 一方でファミマプロパー派の人間はファミマ自体に「まだ手堅い伸びしろ」があると考えている。言い換えるとファミマはコンビニビジネスを“まだ、やり切れていない”と見ているのだ。

 前出のファミマ本部の中堅社員はこう語る。

「ファミマは店舗数が多くポテンシャルは高い。セブン−イレブンに少しでも肩を並べるためにも、彼らに負けないような商品開発を行い、オペレーションを磨き上げていけば、まだまだ成長余力はあると考える現場社員は多くいます。その意味で商品本部を預かる塚本さんに期待を寄せている社員は多い」

「だが実際には、足元を固めることができていないのに、伊藤忠主導の新規事業がバンバン発表される。無人店舗にしても既存店舗とどう共存していくのか、というアナウンスのないまま1000店舗という数字だけが発表されました。ファミマのビジネスが直営店モデルであれば自己責任で好き勝手やればいい。しかし、現行のファミマは加盟店との『相互発展の精神』で成り立つフランチャイズモデルなのです。利益のほぼ全部を加盟店からのフィーで得ている。加盟店軽視の経営方針は、加盟店への裏切りであり、ともすればフランチャイズ契約にある本部の責務を果たしていないと言わざるを得ない」

「いまのファミマが加盟店軽視になっているのはシステム障害の対応にも象徴的に表れています。コンビニビジネスにおいて『システム』と『商品』は二つの心臓です。加盟店に負担をかける結果になっているのに、問題を公表しようとしない姿勢はあきれるばかりです。人事給与システムすら満足に動かせないのに、はるかに高度な技術が要求される無人店舗を運営できるのか、と社内からは冷ややかな声も出始めています」

 システム障害や加盟店軽視の状況について質問をぶつけたところ、ファミマ広報はこう答えた。