争点は「金融機関をだましたかどうか」

 米国政府による身柄引き渡しの要請で、カナダのバンクーバー国際空港で孟氏が逮捕されたのは、2018年12月1日のことだった。当時、多くのメディアは逮捕の理由を「ファーウェイが所有し運営していた香港のスカイコム・テック(星通技術)が、米国の輸出管理規制に違反してイランに通信設備を販売し、米国の制裁を回避するために詐欺と陰謀を企てた」と報じていた。

 2020年1月20日、孟氏の身柄の米国への引き渡しをめぐる公聴会が行われた。ここでは双方可罰性について争われたが、同年5月の裁判で「米国とカナダの双方で犯罪となる双方可罰性は成立しない」とする孟氏の弁護団の主張は退けられた。

 その後、争点は「金融機関をだましたかどうか」に絞られた。

 孟晩舟事件に対する米国の訴状には「孟晩舟は、ファーウェイとスカイコムとの関係を金融機関に対して隠匿し、金融機関に対し誤認を与え、金融サービスを提供させ続けた結果、金融機関はイランに対する米国の制裁に違反、孟晩舟は金融機関に対する詐欺を行った」とある。

 ここでの「金融機関」とは、ファーウェイの取引銀行である英国金融グループHSBCホールディングス傘下の香港上海銀行(中国語で匯豊銀行、以下、HSBC)を指す。つまり、ファーウェイは子会社であるスカイコムとの関係をHSBCに伝えず、スカイコムが通信設備をイランに提供した結果、取引銀行であるHSBCはイランに対する米国の制裁に違反することになった、というものである。

 もし「HSBCがだまされた」のであれば、HSBCはファーウェイとスカイコムの関係を一切認知していなかったことになるが、ファーウェイ側は「2010年にはHSBCに対して財務報告を行い、2013年にもパワーポイントを使って説明を行っているので、HSBCはファーウェイとスカイコムの関係を知っていたはずだ」と主張し、双方の主張は食い違っていた。