だが、組閣の主役は宏池会ではない。安倍元首相が実質的に率いる党内最大派閥の細田派(清和政策研究会)であり、麻生副総裁と甘利幹事長が牽引する麻生派(志公会)だ。いわゆる「3A体制」である。

 細田派からは、首相の女房役である官房長官に松野博一氏が起用され、安倍氏最側近の萩生田光一前文部科学相は経済産業相に横滑り、後任の文科相は末松信介氏、安倍氏実弟の岸信夫防衛相は再任となった。

岸田派からこぼれる
「甘利氏がやりすぎ」の声

 とりわけ、総裁選で同じ麻生派の河野氏を応援せず、岸田氏の支持を固めた甘利幹事長の存在感は際立つ。9年弱ぶりに交代する財務相に、前任の麻生氏の義弟である鈴木俊一氏が食い込んだことをはじめ、麻生派から山際大志郎経済再生相、牧島かれんデジタル担当相を入閣させた。

 山際、牧島両氏は甘利氏の地元・神奈川県の選出で、同県の菅義偉前首相が河野氏(神奈川15区)、小泉進次郎前環境相(同11区)を重用して地元の覇権を維持していたことへの意趣返しと見て取れる。

 新設される経済安全保障担当相の小林鷹之氏は二階派所属であるものの、甘利氏が座長を務めた党の経済安保に関する戦略本部で事務局長を務めた「甘利印」。さらに萩生田氏が率いる経産省は、かつて経産相だった甘利氏の牙城で「今でも甘利氏の了解なしに政策を動かせない」(経産省幹部)とされる。

 重要ポストを主要派閥で固め、政権基盤を安定させたい岸田首相の狙いは明らかだが、さすがに岸田派からも「甘利氏があまりにやりすぎている…」との不満が漏れるほどになっている。