物流イメージPhoto:PIXTA

「物流コストインフレ」がもたらす供給危機について、経済産業省商務サービスグループの中野剛志消費・流通政策課長兼物流企画室長に話を聞いた【後編】をお届けする。

>>【前編】から読む

運賃は引き上げ、効率化で物流コストを圧縮

――中小トラック事業者の肌感覚としてはデフレが続いており、インフレを実感できていません。値上げを促進する「標準的な運賃」が告示されたのも、「運賃が安すぎる」ところからきています。「物流コストインフレの抑制」と「トラック事業者のデフレ脱却」の両立は可能でしょうか。

中野 2000年代までは、規制緩和で市場競争を促し、物流コストを抑制しようという解決策がとられてきました。しかし、その結果、労働環境の悪化によりドライバーの減少を招き、かえって物流供給力を低下させました。

 2020年代の物流コストインフレ対策で、同じ轍を踏むわけにはいきません。ドライバーの供給を増やすために、労働環境を改善して本来あるべき水準の運賃・賃金の水準に引き上げる一方で、物流の非効率性を徹底的に効率化して物流コストを圧縮する――という解決策が求められます。ただ、効率化を進めるのはトラック事業者だけでは限界があり、荷主の協力が不可欠です。

 ガートナー社の調査によると、世界のサプライチェーンをけん引する上位企業25社のランキングに日本の企業は1社も入っていません。新型コロナウイルス感染症や米中摩擦により、サプライチェーンの再構築が議論されていますが、日本の企業は「生産拠点をどこに置くか」が議論の中心でロジスティクスについてはあまり考えていないようです。

 日本ロジスティクスシステム協会の18年度のアンケート調査で「ロジスティクスやサプライチェーンマネジメント(SCM)を推進するうえでの自社の課題」を尋ねたところ、最も多い回答は「物流コスト削減」(60.2%)でした。相変わらず物流がコストセンターという位置づけであることが読み取れます。

 一方、「ロジスティクスやSCMを経営戦略にすること」という回答は16.8%でした。「物流コストデフレ時代」の発想から脱却できていないのではないかと思います。「物流コストインフレ時代」にもかかわらず、わが国の企業は物流をまだ軽視しています。

――物流軽視は日本の競争力を低下させることになりませんか。