ゴジェックには、地上戦と空中戦を交えた全体構想があった

 当初よりスーパーアプリになるという全体構想を描いていたゴジェックは、ドライバーの教育や代金回収スキーム構築などの地道な改善活動、つまりは地上戦での工夫によって手にした購買データをはじめとするユーザ情報をもとに、空中戦での戦いを有利に進めました(下図)。
 

 実は、ライドシェア事業やEコマース事業を展開するスタートアップはかつてインドネシアに多数存在したのですが、それらの多くは地上戦を軽視してデジタル技術を活用した空中戦ばかりを重視していました。

 しかし、システムを作りこんでドライバーのレーティングを実施するだけでは、そもそもの品質のバラつきが大きいインドネシアでは、品質改善につなげることはできませんでした。その結果、それらのスタートアップは、ユーザや加盟店が求めるサービス品質を提供することに失敗して駆逐されていきました。

 日本企業が投資をする際には、スタートアップのデジタル技術やそれらが保有するビッグデータに注目しがちです。しかし、ゴジェックのようなエコシステムを構築するには、置かれた状況に合わせて場を定義し、抽象化によりCSF(重要成功要因)を抽出してから構想を具体化することが重要です。

 そして東南アジアでは、ゴジェックが実施したような地上戦での改善活動が、実は成功へのカギとなることが多々あります。

 今回は新興国におけるリープフロッグ現象と全体構想の重要性について解説しましたが、次回は日本企業の強みを東南アジアで生かす方法について解説します。

 読者からの質問に回答する形で連載を進めたいと思いますので、こちらからご質問をいただければと思います。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・IGPIシンガポール取締役CEO
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て現職。現在はシンガポールを拠点として政府機関、グローバル企業、東南アジア企業に対するコンサルティングやM&Aアドバイザリー業務に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)、ITストラテジスト。