上司が部下に提案してほしいときの
よくある定番4パターン

 上司の状況として、まず以下のようなバリエーションがある。

1 改善をしたいという意思はないが、提案などの機会のためにアイデアが必要
2 改善をしたいという意思はないが、上司本人の評価につながるアイデアなら歓迎
3 改善をしたいという強い意志があり、そのための良いアイデアを歓迎
4 改善よりも部下の人材育成のためにアイデアをまとめさせる訓練を積ませたい

 それぞれの状況に沿って、適切な対応を考えると下記のようになる。

1 改善をしたいという意思はないが、提案などの機会のためにアイデアが必要

 これは、私が経験した上記のケースと同じである。上司の上司や、上司の出る会議の目的が、「ア:実現可能性はそれほど問わず、それより夢のある話を提案してほしいということなのか」「イ:すぐに実現できて、成果が見える提案をしてほしいのか」については、事前によくよく確認する必要がある。上司の出席する会議や上司の上司からの依頼内容が、アに近いかイに近いかで、こちらで準備する内容が百八十度変わるからだ。

 アだと、外国の同業他社や近隣業界の成功例を、見栄えのよいフリー素材をネットで調達し、グラフの見せ方も工夫して、ビジュアルを完璧にし、キーワードもてんこ盛りにしたうえで、われわれも実現可能!と締めくくれば、一番喜ばれる。

 イだと、もうちょっと難易度は上がるだろう。新聞記事やニュース記事、シンクタンクのリポートやセミナーのアーカイブなどを当たって、上司の知らない最近の新しい動きや小さな成功例などをまとめておけば事足りる。いずれにしても依頼してきた上司を喜ばせるのが目的だから、会議の目的を確認し、それと合致させなければならない。

2 改善をしたいという意思はないが、当人の評価につながるアイデアなら歓迎

 このような上司の場合に一番良いのは、ドラッカーではないが、「すでに起こった未来」である。1のイと近い部分もあるが、すでに成功している事例を探し(1のイならここまで)、それに自社でも通用しそうな意味づけをして、別の方面でも展開可能であることを結論づけるような提案なら飛び上がって喜ぶ(ただし、適当な制約条件や成功のための必要条件は明確にしておくことが重要である。でなければ、1のアとあまり変わらなくなってしまう)。

 労力が少なくてすぐに成果が上がることを喜ぶ効率重視型の上司が提案を求めるなら、こういう対応をしておけばよいだろう。まちがっても、大風呂敷を広げた立派な提案をしてはならない。

3 改善をしたいという強い意図があり、そのための良いアイデアを歓迎

 こういう上司に巡り合えるととても幸せか、不幸になるか、のどちらかである。それなりの年齢になってもまだ、「改善をしたい!」などと思っている上司は、社内でもそれなりに期待されており、まわりに支援してくれる応援団もあり、上司の上司からの覚えもそれなりにめでたい可能性も高い。

 このような上司の下で、本質的な提案ができ、上司の指導をもとに社内の変革活動ができれば、社内外の人脈も広がり、知見も深くなり、将来あなたが飛躍するための技能の鍛錬や能力の蓄積も図れる。成功すれば社内の評価も高まり、良いことだらけである。

 しかし、同じような考えを持っている人のなかには、「改善したい」という強い意図があって、周りに働きかけても、誰にも振り向いてもらえず、社内で鼻つまみ者になっている人というのもいて、あなたの上司がそれである可能性もある。やる気はあれども、実行力が疑問視されており、誰も付いてきてくれない上司である。いわば独りよがりのやりたがり上司なので、やりたがるだけで、実際にその上司が有効な働きをするわけではないから、上司が命じるとおりに変革をぶち上げても成功せず、他部署からは煙たがられ、部下はその一味として認識されて迷惑をこうむるだけである。

 このような状況であると判断した場合は、おとなしくしておいたほうが無難である。あなた自身の仕事が忙しいふりをして、適当にやりすごすべきだろう。