いいものを見慣れている人は、
説明しなくても本物かどうか瞬時にわかる(細尾)

旧態依然とした伝統的な業界は、どうすれば滅びずに生き残れるのか?パークハイアット京都で行われた「GO ON」主催の「CRAFTS NIGHT」の会場風景

 

山口 あれ、名前出してもいいと思うんですけど、3年前ぐらいでしたっけ。資生堂のパーティがありましたね。

細尾 はい、そうですね。

山口 僕もたまたまそれに呼ばれて参加していたのですが、それはグローバルなカンファレンスで、お客さんは半分以上が外国人の方だったんですけれども、細尾さん、そこに着物を着ていらしてたんですよね。

細尾 はい。

山口 で、僕は普通のスーツだったんですけども、もうね、細尾さんがアイドル状態なんですよ(笑)。ヨーロッパの人とかアメリカの人が、「写真撮らせてくれ」っていって、細尾さんずっと動けない。「じゃ、次の方どうぞ」「次の方どうぞ」って。やっぱりあれを見ると衝撃的にインプレッシブなんですよ。もちろん細尾さんの着こなしが素敵だっていうのもあるんですが、あれ見立ててもらっても、ちょっとあの風格は出てこないと思うんです。やっぱりね、これって美意識のすごいところなんです。僕がいたときにはイタリア人の女性のグループだったんですけれども、「ベリッシモ」「ベリッシモ」って、もう美しいの最上形なわけですけど、そこら中から声が聞こえてくる。

 イタリアで着物なんか見たこともないっていう人たち、あるいは見たとしても写真とかインターネットでしか見たことないっていう人が現実に行って、パーティの場でキラキラ、薄明かりに反射しているのを見たときに、もうただただ衝撃を受けた感じなんです。僕には当然誰も来ないんですよ。誰、こいつみたいな感じ。いや、俺もこれは着物買おうと思いましたもんね、あのとき(笑)。

 ほんとにいいものってやっぱりちゃんと伝わっていくし、やっぱり日本の伝統工芸だから日本人だけでってことじゃなくて、そこに魅力を感じた人は、どんどん海外でも着物を着たいということで広がっていくと、なんかすごくいい世界になっていくんで、やっぱりできるかぎりいいものを露出する機会を増やしていくということが、大事なんじゃないかなと思いますね。

細尾 確かに、特に海外の人とかと行くと、着物はかなり破壊力、武器にはなるなというのはやっぱり自分の体感としてありますね。なので、着物を着ていったほうがいいかなというところは、切り替えて行ってますね。

山口 やっぱり細尾さん的には、ああいうときは若干優越感を感じるの?

細尾 いえ、優越感はないですけど、ちょっとあのときはイタリア人とかヨーロッパの人は、けっこう感情豊かなので、ちょっとしたマスコットみたいな状態になってたんじゃないかなって。

山口 マスコット、アイドル。

細尾 なんか、そうですね。

山口 僕はでもね、感動したんですね。やっぱりちゃんと本物はわかってくれるんだと。だって不思議だと思いませんか。全然違うヨーロッパ文化の中で育ってきた人が、日本の西陣織をパッと見た瞬間に「これ、めちゃくちゃかっこいい!」ってやっぱり言うわけですよ。だから、なんていうか、これは世界平和は実現できるなと僕は見ててやっぱり思ったんです。あれを見た人からしたら、やっぱり京都を爆撃するとかって絶対にもうできないと思うし、逆もまた然りだし、そういう力がやっぱりあるんだなということを。

細尾 確かに形で見てるというよりは、ほんとに素材に触らしてくれとか、テクスチャーでちゃんと見極めてくれてるのがうれしかったですね。

山口 触る人もいましたね。

細尾 富士山、芸者的な見え方ではなくて、けっこうディテールを見てくれました。いいものを見慣れている美意識の高い方が多かったので、そこはすごく感じました。コロナ前とかに、うちに来られるVIPのお客様とかでも、意外と和柄を買うのかなと思ったら、めちゃめちゃ渋い紬(つむぎ)とか、結城紬、これ気持ちいいからちょっと家でローブで使いたいから買って帰りたいとか、けっこういいものを見慣れているので、そこの反応はもう速いですね。説明しなくても、もういいという。

山口 やっぱり情報量が多いものに対して、ある一定の閾値(しきいち)を持ってるんでしょうね。ちゃんと情報量が多いものをくれると、あ、これ本物っていうのがわかるんだなあと。

細尾 確かにそうだと思いますね。

つづく