「役に立つから意味がある」へ価値がシフトする。
意味とは、情報のこと(山口)

旧態依然とした伝統的な業界は、どうすれば滅びずに生き残れるのか?山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『思考のコンパス』(PHPビジネス新書)など。神奈川県葉山町に在住。

 

山口 僕は「役に立つから意味がある」っていうことへ、これから価値がシフトすると思います。いままでだったら、安全、快適、便利なものがみんなよかったわけですけれども、ただ単に安全、快適、便利っていうのだと、もう要らないよってなるわけですよね。伝統工芸とは違う分野ですけれども、「宇宙で一番おいしいトースターで、朝ごはん食べたくありませんか?」って言われると、やっぱり2万6000円のトースターをみんな買うわけですよね。ここがやっぱり一つの鍵だなあと思っています。

 これ、僕は「役に立つから意味がある」っていうふうに言ってて、それは何かというと、ものすごくおいしいトーストを食べる、そういうライフスタイルで、それは当然その世界観の中にはどういうテーブルなのかとか、家の中に植物があってとか、そういうある意味での映画のワンシーンの主人公に自分がなるような世界観を売るっていうことなんだと思うんです。

 ですから、役に立つから意味がある。意味っていうのは何かというとやっぱり情報なんで、情報伝達してあげないと意味って生まれないわけです。じゃあ、その情報のディストリビューター、卸とか小売りっていうのは物のディストリビューターだったわけですけれども、これから先、情報のディストリビューターにもなるっていうのはすごく大事なことだと思います。

山口 あともう一つ、スケール(規模)っていうものをどう考えるかといったときに、うちに来ていただければなんでも全部ありますよっていうのは、意味や情報でディストリビューターになっていくとなると、世界観がデコボコなものが全部ありますよっていうのは、やっぱり難しい状態になると思うんですね。

 例えば、究極の意味のディストリビューターというのは誰かといったら、これはギャラリー(画廊)なんですよね。ギャラリーというのは、例えば小山登美夫さんとか、ギャラリストというのがいて、彼らは自分がこれはと思ったアーティストの作品を買い付けるか契約をして、自分のギャラリーに並べて売る。この作品やこのアーティストがいまという時代において、なぜ高く評価しているのかっていうことを、アーティスト以上に饒舌に語るわけですよね。

 それで、お客は誰に付くかといったら、どちらかというとアーティストにはもちろん、それは例えば奈良美智さんとか、ああいう方たちになればそれはもうアーティストにお客が付くわけですけども、そういう人たちになる前に、じゃあなぜその人の作品を買おうかなと思うかというと、やっぱりギャラリストが与える意味なわけですよね。

 ですから、この意味を付けていくって、キュレーターとかギャラリストのような感覚でもって、自分が持ってる意味のキュレーションというのをやったときに、なぜこの品物に意味が、価値があって、あなたに買ってもらいたいと思うかって、そこの機能自体はこれからものすごく求められてくるんじゃないかなと思ってます。質問、どうもありがとうございます。