実質賃金のグラフは、
アメリカの所得格差のグラフと似ている?

 この図1から、次の図2を思い出した。図2は、アメリカで所得の高い人の所得は上がっているが、所得の低い人の所得は上がっていないことを示している。どちらも、あるグループの所得は上がっているのに他のグループの所得は上がっていないということを示すので形が似ている。

 ただし、世間に出回った図2は、所得の水準ではなく、全ての人々の所得に占める所得の高い人と低い人の所得のシェアの推移である。シェアであるから、所得の低い人の所得水準が上がっていてもシェアは下がってしまうことがある。シェアでなくて所得の絶対値で見れば、これほどひどいことにはなっていないが、所得の高い人の所得は上がっているが、所得の低い人の所得は上がっていないというのは同じである。

 図1と図2から何が言えるだろうか。

 図2のようになる理由は、現在のグローバル化した世界では、世界で通用する高度な技能を身に着けた人々の所得はいくらでも上がり、そうでない人の所得は全世界の所得の低い人々との競争圧力によって上がらないからだとされている。アメリカの仕事は、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル。あるいはマイクロソフトやネットフリックスを加えてGAFAM、FAANGとも。社名変更もあるのでビッグ・テックと呼んだほうが良いかもしれない)に代表される高度な技能を必要とする仕事と、「ラストベルト」の産業の仕事に分かれてしまい、二極化しているというのだ。

 これを日本とアメリカに当てはめてみると、アメリカはGAFAの世界で、日本はラストベルトの世界ということになるのだろうか。もちろん、日本の製造業はラストベルトではないが、アメリカのGAFAには到底追いつけない。

 すると、日本の賃金を上げるためには、日本もGAFAを生むしかないということになるのだろうか。しかし、どうやったら良いのか。補助金を付けて日本版GAFAを生むのだろうか。その補助金はどこからか持って来ないといけない。MMT(現代貨幣理論)で政府がいくら借金をしても大丈夫だと考えて、そこから持ってくるのだろうか。MMTでなければ、日本の既存産業に課税するしかない。しかし、そんなことをすれば、日本である程度成功している企業の足を引っ張ることになる。

 図1をもう一度見てみよう。ドイツもイギリスもフランスも、GAFAに匹敵するような企業はないが、それでも賃金は上がっている。