現在、ビーガン向けのラーメンを出しているチェーン店は少なく、多くは個人店だ。

 その一つが東京・下北沢にあるビーガン中華の薬膳食堂ちゃぶ膳だ。同店のとんこつ風ラーメン「濃口酵母ラーメン ドラゴン」は、スープの濃度は九州の豚骨ラーメンにかなり近いが、味は澄んでいて、豚特有の臭さもない。ビーガンではなくても、濃口酵母ラーメンの方があっさりして好きだという人も少なくないだろう。

薬膳食堂ちゃぶ膳 濃口酵母ラーメン ドラゴン薬膳食堂ちゃぶ膳の「濃口酵母ラーメン ドラゴン」(筆者撮影)

 自由が丘にある菜道のラーメン「齋麺」は野菜を鮮やかにトッピングし、キノコダシがベースで非常においしい。ビーガンからイメージされるあっさり感はなく、ダシは複層的で濃厚だ。

菜道 齋麺菜道の「齋麺」(筆者撮影)

 ビーガンラーメンを出す十数店舗を回ったが、どの製品も動物性の一般的なラーメンにまったく負けていない。

 昨今、ビーガン食には動物愛護や環境問題がついて回る。欧米ではエシカル(倫理的)な食品かどうかが問われ、食べることで世界を救うという大層な心持ちでビーガンになる人が増えているのだという。

 BBCのアンケートによると、食事から肉を減らすようにした人の一番の理由は「健康」で49%、ついで「体重管理」「動物愛護」「環境」と続くが、肉を一切食べないビーガンの場合、一番の理由は「動物愛護」で55%、次いで「環境」「健康」と「味」が同率だった(『ベジタリアン・ヴィーガン市場に関する調査(英国、フランス、ドイツ)』日本貿易振興機構 2021年3月)。

 肉の消費量が少ない日本では、健康がビーガンを選ぶ動機となり、味がその継続性を決めるだろう。

 日本人は海外の文化をどん欲に吸収し、わがものとして逆に世界へと発信してきた。ビーガンでも同じことが起きるかもしれない。「意識高い系」に惑わされることなく、味で勝負と鍛えられ、日本のラーメンが世界に進出したようにビーガンラーメンのような料理が世界に発信されれば、商機となる。

 Allied Market Researchによるとビーガンの世界での市場規模は2018年で142億ドル(約1兆6000億円)、2026年には314億ドル(約3兆5500億円)と見込まれている。この巨大市場の一角を日本の食が占められるかどうか、注目していきたい。

(サイエンスライター 川口友万)