「今の会社で働き続けていいのかな?」「でも、転職するのは怖いな……」。働き方が大きく変わるなか、そんな悩みを抱える人は多いだろう。高卒から、30歳で年収1000万円超という驚きの経歴をもつ山下良輔さんは、そんな「転職迷子」たちから圧倒的な支持を得ている。山下さんは出版した初の著書『転職が僕らを助けてくれる――新卒で入れなかったあの会社に入社する方法』で、自らの転職経験を全て公開している。
その戦略は「外資系やコンサル業界は、学歴エリートでなくても入れる」「職歴に一貫性はなくてもいい」など、これまでの「転職の常識」を塗り替えるものばかりだ。どうしたら人生を変える転職ができるのか、どうしたらいい会社選びができるのか。この連載では本書より一部を特別に公開する。

頭がいい人と悪い人「年収を上げる方法」に対する考え方の差Photo: Adobe Stock

圧倒的にコスパがいいのは出世より「転職」

 この本は、かつて新卒採用で第一志望の会社に入れなかった人、なんとなくモヤモヤを抱えながら今の会社で働いている人のために書かれた、人生を変えるための「マニュアル」です。

 偏差値40以下の高校を卒業後、何も考えずに月給16万円の自動車部品会社に就職した僕が、3回の「転職という武器」を使って世界最大級のコンサルティング・ファームのコンサルタントになり、30歳で年収1000万円を超えた︱そこに至るまでにやったことの全てを、誰でも再現できる方法論として落とし込みました。

 このやり方で、僕は、外資系コンサルティング・ファーム、大手外資系IT企業、日系大手メーカーなどの一流企業に内定をもらいました(ごく一部の会社には通用しませんが、それは後ほどちゃんと書いておきます)。

「高卒からコンサルティング業界に転職し、30歳で年収1000万円を超えた」

 僕がこの事実を初対面の人に話すと、必ず2種類の答えが返ってきます。

 ひとつは、「すごい大逆転! 相当努力されたんですね」。
 もうひとつは、「へえ、もともと地頭がよかったんですね」。

 これまで「ええ、まあ……」と笑って対応していましたが、僕はこの2つの言葉を聞くたびに、いつも違和感がありました。なぜなら形は違っていながら、どちらにも(いった本人は無意識かもしれませんが)「あなたは派手な下剋上ができてよかったね。運がよかったんだろうね。まあ、自分には関係ない話だけれど」というニュアンスが含まれていたからです。

 断言しますが、僕が今のようなキャリアを歩んだのは、決して「がむしゃらな努力」や、「地頭のよさ」の結果ではありません。ましてや「運がよかったから」でもありません。

 僕はただ「転職」という誰にでも使える武器を最大限利用し、「あたり前の結果」を手に入れただけなのです。そして僕が本書に書いた「誰にでもできるのに、みんなが実践していないこと」を知るだけで、入りたい会社に就職し、やりたい仕事をして、お金の余裕もでき、今よりも納得した人生を送ることができるのです。

 もしあなたが東京大学を卒業し、新卒で第一志望の大手企業に入社して、幹部候補生として出世の道を着実に歩んでいるとしたら、この本を読む必要はないと思います。あるいは商才があり、サラリーマン以外の副業で儲けているなら、僕がお伝えすることはそんなに有益ではないかもしれません。

 でももし、親ガチャ、新卒ガチャ、環境ガチャ……過去に与えられたカードで人生が決められていると思い込んで、絶望を抱えているのなら。社会に出て年齢を重ねるにつれ、自分が「トップエリート」には入っていない現実に、じわじわ直面し始めているのなら。ぜひ、この先を読み進めてください。

日本の転職市場は「実績」だけが評価されるラッキーな場所

 やりたい仕事をして、年収を上げる―そのためには出世より「転職」こそが圧倒的にコスパがいい。僕はそう断言します。

 その根拠は、日本の特殊な労働市場環境にあります。多くの日本人は気づいていませんが、転職を希望する人にとって日本は世界でも有数の恵まれた国です。僕がこのことに気づいたのは、新卒で就職した会社の「タイ工場立ち上げ」で現地の人たちと話したことがきっかけでした。タイ人の同僚たちは「僕らは今とは別の仕事がしたいから、大学に通っているんだ」といっていました。

「ジョブ型雇用」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

 これは主に欧米で普及している雇用システムで、「仕事に対して人を割り当てる」というものです。

 採用時に「職務記述書(ジョブディスクリプションという)」に基づいた契約を結び、担当する業務や範囲などをあらかじめ決めたうえで働きます。

 一方で日本ではジョブ型雇用を導入している会社は12%程度にとどまり、「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる働き方が主流です(※)。新卒一括採用などによって「総合職」の人材を確保し、研修などを経て配属や仕事の割り振りが決まります。また、数年ごとに部署を異動するジョブローテーションなどは、メンバーシップ型雇用の典型的な働き方といえます。

 ジョブ型雇用が中心の海外では、アカデミックな専門知識とジョブが完全に結び付いています。海外の専門職の社員は高学歴(大学院出身者)が一般的です。

 日本でも、新卒一括採用においては「学歴」が超重要視されますが、ひとたび「転職市場」に出た途端、仕事の「実績」を見られるようになります。学歴や修士号の有無、大学や大学院で専門的に学んだ内容は選考過程で参考にされるくらいです。

 これが、東大卒がゴロゴロしているコンサルティング業界に、高卒の僕が入れたカラクリです。

 日本のメンバーシップ型雇用の問題点を指摘し、ジョブ型雇用への転換を叫ぶ声も増えてはいますが、現実問題として転職を考えている人にとっては、とても恵まれた環境であることは間違いないのです。この社会構造をうまく利用しない手はありません。

実践者だから書けた超詳細なマニュアル

 本書がこれまでの転職本と全く違うのは、「非エリートの戦略」に徹底的にこだわっている点です。

 例えば転職本の超定番で「キャリアの一貫性を大事にしよう」という項目があります。これが僕にはあまり役立ちませんでした。志望している業界と今の自分の間に、一貫性はなかったからです。こうしたキレイごとを本書では徹底的に排除しました。

・常識:自己分析をしよう→本書:自己分析を元に会社選びをしてはいけない
・常識:コンサルやITはエリート→本書:学歴がなくてもコンサルやITは狙える
・常識:社内MVPをアピールせよ→本書:地味な仕事でも転職の実績になる
 など、いわゆる一般的な転職の常識が覆されることばかりだと思いますが、これが僕ら持たざる者にとっての「王道」なのです。

 僕はこのメソッドを「わらしべ転職」と勝手に名付けています。昔話『わらしべ長者』の貧乏なおじいさんが旅をするなかで、わらしべをみかんと交換し、反物と交換し、馬と交換し……最終的に大金を手に入れたように、僕も3回の転職によって少しずつステップアップしていきました。

 僕は最初から狙いがあって、今の場所にたどりついたわけではありません。目の前のわらをつかんでいたら、遠くに来ていた、そんな感じです。

 でも、18~31歳までの歩みを今になって振り返ると、キャリアの選択のなかで「よかったこと」「悪かったこと」「意味があったこと」「ムダだったこと」が、僕にはわかります。そうした経験をもとに、「予備知識がなくても誰でも使えて、再現性のある」マニュアルにしたのが本書です。マニュアルの内容は僕が経験した業界以外にも応用がきく、普遍的なものに仕上げました。今どんな業界、どんな職種の仕事をしている人にも役立ちます。

 ちなみに僕が高卒後に身を置いていた自動車業界では、マニュアルが超重要視されており、僕はそれを日々改善するのが大好きでした。

 マニュアルを読めば、高校を卒業したばかりの新人でも、経験の浅い期間工でも、質の高い製品をつくることができる。それと同じように、本書を1冊読めば、誰でも転職という武器を使いこなすことができます。