工業高校卒から、30歳で年収1000万円のコンサルタントに――。『転職が僕らを助けてくれる――新卒で入れなかったあの会社に入社する方法』の著者・山下良輔さんは、少ない元手から転職によってキャリアを花咲かせた、いわば「転職のわらしべ長者」だ。
ロングインタビュー、第5回のテーマは「退職」。会社も自分も幸せにならない退職の仕方をしないためには、転職活動中から考えることがあるという。退職で揉めたことがないという山下さんに、秘訣を教えてもらった。(取材・構成/オバラミツフミ)
ポイント1:書類選考に出すのは「本当に入社たい会社だけ」
――山下さんは、3回「退職」のご経験がありますよね。会社から慰留されたり、退職にあたって揉めたりしたりしたことはないのでしょうか。
山下良輔(以下、山下):元の会社と揉めたことは一度もないですね。自分として、その一番の理由は、「迷わなかった」からだと思っています。迷いがある人は、会社にも迷惑をかけてしまうので、結果的にお互い不幸な結果になることが多い気がします。
――「迷わない」。具体的にはどういうことですか?
山下:一番大事なポイントは、「そもそも第一志望の会社しか受けない」ということです。
つまり、退職で揉めるか揉めないかは、転職活動中から決まっているということですね。
何回か書類選考に落ちただけで不安になり「受かりそうな会社」の求人を探してしまう人がいますが、そうするともし内定をもらったときに自分のなかで「入社するか、今の会社に残るか」を迷う気持ちが生まれます。結果、今の会社にどっちつかずの態度を取ることになり、話し合いをしたり、会社の不満を言って引き留めを狙うことに……。
落ちることは気にせず、「受かったら入りたい会社」だけを、厳選して受けてください。僕自身、デロイトは2回書類選考で落ちて、3度目の正直で内定を勝ち取っています。何度応募してもそれがマイナスにはなりませんので、その点は安心して大丈夫です。
ポイント2:同僚に「辞めたい」と相談しない
――他に、在職中から気をつけていたことはありますか。
山下:大前提としてキャリアのことは、仲のいい同世代だとしても今の会社の人に一切相談しないように、徹底していました。
よくあるのが「辞めようと思います」という言葉を切り札に上司の気を引いたり、会社側から「辞めないでくれよ」と慰留された場合に「考えてみます」と答えてしまうパターン。こうしたどっちつかずの態度こそが、退職するにしてもしないにしても、遺恨を残す原因になります。
迷うような転職はその後の人生にあまりいい影響を与えないと僕は思っています。それなら、今の会社にもう少し残ることを考えたほうがいい。反対に、迷いがなく前向きな転職であれば、今の会社の人だって応援してくれますし、それで文句や悪口を言ってくるような人とは、その後もつながる必要はありません。
ポイント3:焦って辞めない
――山下さんは今でも前職の人たちと連絡を取り合っているとか。なぜ、そうした関係が築けているのでしょうか。
山下:「焦って辞めなかった」ことは大きいかもしれません。
僕は、転職先の会社の内定が出た時点で、辞めるまでのスケジュール(全体像)をつくり、引き継ぎ期間を長くとっていました。「あれもこれもやり残して、あっという間に辞めた」という人のイメージは退職後も悪く、その後の人間関係にも響きます。しかし、引き継ぎ期間でもじっくりやりとりをして仲を深めることで、今後上司、同僚、他部署の人、そしてキーパーソンとも長くゆるく、つながることができるのです。僕は今でも1社ごとにそれぞれ2~3人、やりとりを続けている人がいます。
自分の本心がわからなくなったら……?
――「迷うのはよくない」というのは正論だと思うのですが、自分で自分の気持ちがわからないときってないですか……? 僕はあるんですが、そういう人から相談を受けたら、山下さんならどうしますか。
山下:自分の本心がわかっていない人に転職の相談をされたとき、僕は「ゴールは3択です。3つから希望するものを選んでください」と答えています。
その3択とは
①年収を上げる
②やりたいことをやる
③ワークライフバランスを優先する
です。年収を「800万円にしたいか、1000万円欲しいか」ワーク:ライフの希望割合が「5:5か、8:2か」など、人それぞれでグラデーションはありますが、あらゆる転職の選択肢はこの3つに集約できると思います。
僕の場合は、第1優先が「やりたいことをやる」、第2優先が「年収を上げる」でした。
――「3つとも大事だよ!」という場合はどうすれば……?
山下:僕の独自理論なんですが、人の本音は「でも」や「だけど」という言葉のあとに出てくるんじゃないかなと。なぜなら本気で何かを決断している場合、誰も「でも」とはいわないからです。「なんとなくここが引っかかるんだよなあ」「この会社、なんだか気になるなあ」……もしほんの少しでも気になるなら、まず、自分のもやもやした気持ちを言語化してみてください。話すのでも、書き出すのでもいいです。
例えば
「この仕事はやりがいもあるしチャレンジしてみたい。でも子どもがまだ小さくて手がかかるんだよな……」
と思ったとします。「でも」のあとが本音なので、ここでの優先事項は「仕事<子ども」。本心ではやりがいよりもワークライフバランスを優先したいと思っているはずです。
あるいは「この仕事はずっと夢に見ていたけど、年収がな~」と悩むなら、今の会社に留まる方がいいと思います。
不幸な退職をしないためにも、何を優先すべきなのかがわかってくると思いますよ。
★連載第1回 「仕事は地味でも転職で成功する人」と「社内では優秀なのに市場価値が低い人」の差
★連載第2回 「石の上にも3年」を信じてずっと転職しない30代の末路
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★連載第4回 「全身ユニクロでも清潔感がある人」と「なんとなくだらしない印象の人」の決定的な差
Exception株式会社代表取締役。
1989年、愛知県生まれ。名古屋工業高等学校卒業後、2008年に株式会社松田電機工業所(自動車部品メーカー)に入社。愛知県の工場で生産技術エンジニアとして働く。入社5年目の22歳で、海外(タイ)工場─立ち上げのプロジェクトに参加。1年半にわたる海外駐在を経験。2014年、株式会社SUBARUに転職。先行開発に携わる傍ら、自ら他社に声がけして「共同研修プログラム」を立ち上げ。2016~2018年、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)に働きながら通い、修了。「プロジェクト単位の仕事がしたい」とコンサルティング・ファームへの転職を決意。2018年~PwCコンサルティング合同会社、2019年~デロイトトーマツ コンサルティング合同会社にて、コンサルタントとして勤務。大手メーカーへの業務効率化の支援などを行う。2021年8月に独立。現在はException株式会社の代表として、企業の組織設計、採用支援、キャリア開発などを行う。Twitterでも転職・キャリアについての情報発信を積極的に行っており、20代、30代から支持を得ている。Twitterには年間100件以上の転職・キャリアの相談があり、相談者から「異業種に転職できた」「交渉した結果、年収が200万円アップした」「高卒でも、20代で年収1000万円を超えた」など、多くの喜びの声が寄せられている。自身の転職ノウハウをまとめた初の著書『転職が僕らを助けてくれる』を発売。
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Photo: Motoko Endo