このような経緯からわかることは、アスベストが人間にとって有害・危険なものであると一般に広く知られるようになったのはつい最近、わずか16年ほど前という事実だ。また、法律の規制と前後して、建築現場でのアスベスト使用が段階的に禁止・中止されてきた経緯があるため、アスベストは約50年にわたって戸建て住宅や多くのマンション、アパート、ビル、工場などの建築物や工作物全般に建材や吹き付け材として使用されてきたという事実も浮き彫りになった。
筆者の自宅近くでも、つい先日賃貸オフィスが取り壊されてマンションに建て替えられる際、アスベストの使用が判明した。それによって従前の建物全体を隙間なく覆い、飛散防止対策および周辺告知を実施した上で慎重に解体工事が進められる状況を、テレワークする自宅から眺めるという体験をした。アスベストはごく身近に存在していて、その健康被害についても決して他人事ではないと感じる。
法律改正により
飛散防止対策が強化
この厄介者のアスベストについて、この度法律が改正され、2021年4月から施行されて飛散防止対策が一段と強化された。今後不動産会社が流通市場で取り扱うであろう住宅や賃貸物件、オフィスの売買などでは対象となる案件も数多くあるものと想定されることから、取引の現場においても見逃せない法律改正であり、最新のアスベスト対策について一通り知っておく必要がある。
今回の法律改正では、全てのアスベスト含有建材に対象が拡大され(これまで全てではなかったことが不思議だが)、アスベストがあるかどうかの事前調査についても法律で定めて書面作成と保存が義務付けられることになった。
そして同時に、アスベスト含有建材の“見落とし”を防ぐ目的で作業記録も作成・保存が義務付けられている。また、規則を守らなかった場合の直接罰(業務改善命令などを経ずに適用される罰則)も定められており、事前調査結果の報告義務違反には30万円以下の罰金となるほか、届出対象特定工事にかかる除去等の措置の義務違反には懲役刑も設定された。
さらに、注目すべきは、今回の「大気汚染防止法の一部を改正する法律」は昨年6月に公布(周知開始)されて今年の4月から既に施行されているが、2022年4月、2023年10月と順次強化されることが現段階で決まっていることだ。
アスベスト対策は健康被害を拡大させないための対応が急務であるにもかかわらず、現場では必ずしも厳格な作業対応が為されているとは言い切れない状況に鑑みて、ハードルを上げて厳しく対応し罰則規定も設ける、という国の方針・意向が見て取れる。