対照的に、翻訳されて日本の『ジャンプ+』などに掲載されている中国漫画は、現地では大ヒットしても日本で目立って売れた作品はほとんどない。

「ただセリフを日本語に翻訳しただけで、人名や文化のローカライズ、および日本の読者向けのプロモーションがほとんどなされないからです。中国のサブカルチャーには道教が前提となる作品も多いですが、日本人にはなじみのない文化なので、翻訳や作品紹介に気を遣わないと読みづらさを感じてしまう」

 ただし、2020年頃からは、この“ローカライズ”をせずに作品を展開する動きも増えてきたという。

「日韓関係や日本における韓国文化受容の変化を踏まえているのでしょう。2010年代半ばは、フジテレビ前で起こった嫌韓デモなどの記憶も新しく、政治的には日韓関係が冷え込んでいた時期でした。おそらくその影響で、LINEマンガもピッコマもサービス開始からしばらくは『韓国発の会社・漫画』と見られることにセンシティブでした。しかし近年、韓国人アイドルグループのBTSの世界進出やNetflixでの『愛の不時着』の世界的ヒットなどを受け、日本でもお茶の間レベルで嫌韓意識が落ち着いてきたと敏感に読み取ったのだと考えます」

 飯田氏によると、ピッコマは参入当時、「カカオジャパンは日本で作られた日本の会社であり、取り扱い作品の95%以上は日本の漫画だ」と強調していたという。しかし、2021年4月から、ウェブトゥーン作品を『SMARTOON』と銘打って打ち出し、従来から取材を受けてきた出版業界紙やIT系メディアに加え、新聞など大手マスコミにも積極的に露出するなど、PR戦略の変更が感じられる。

「作品を日本向けにローカライズしなかったせいで読者が離れた、という話は聞きません。参入当初の“導入期”は日本の事業者やユーザーに抵抗なく受け入れられることに徹していたものの、そこを乗り越えた現在の “普及期”になると、『韓国発』というラベルに対する消極的な態度は見えない。注意深く情勢を観察し、日本で反発されずにウェブトゥーンや自社サービスを定着させる施策を実行してきた印象です。ピッコマは『俺だけレベルアップな件』が月間で億単位の売り上げを叩き出すようになった今も、『SMARTOONは漫画のライトユーザーが好む気軽な“スナックカルチャー”であり、日本の漫画は腰を据えて没頭して読むものだ』と、常に日本の漫画を立ててくれる。日本の漫画業界関係者や作家、読者に配慮した言葉選びは、サービス開始当初から変わりません」

 また、飯田氏がかねて取材してきたピッコマでは、人工知能と人力を組み合わせた徹底的なマーケティングも強みにしているそうだ。