虐待を逃れた子どもたちから
いきなり翼をもぎ取る社会

 中村さんとともに政府や行政への働きかけを続けている弁護士の飛田桂(ひだ・けい)さんは、さまざまな困難のもとにある子どもたちを支援し続けてきた立場から語る。

「虐待から自力で逃げてきた子どもたちは、短大生や専門学校生であることも少なくないです。とりあえずはシェルター等で一息つけたら、その次を探すわけですが、自立援助ホームは数少ないため入所できるとは限りません。本人の収入源もないわけですから、結局は生活保護でアパート入居となる場合が多いです。そこで初めて、住民登録ができます。学校は、退学や休学ということになります」(飛田さん)

 自分の将来や進学の夢を思い描きながら虐待に耐え、成年近い年齢になって逃げることに成功すると、そのとたんに高校以後の教育を断念しなくてはならない。飛田さんは、「支援していて、絶望感がありました」という。

 住民登録ができないと、心身の傷を治療することもままならない。医療機関や薬局の情報が、家族のもとに流れてしまうこともある。本人が国民健康保険に加入することもできない。生活保護の医療費補助を単体で利用することも難しい。

「中村さんも私たちも、特別な施しを求めているわけではありません。子どもたちが置かれた環境によって奪われてしまっている権利を、回復してほしいだけです」(飛田さん)

 最も困難な若い時期に、一時的に生活保護を利用して高校以後の教育を受けると、将来にわたって生活保護の必要性から遠ざかる可能性も高い。

「今、虐待から逃げて大人たちに助けを求めると、退学や休学という形で、いきなり翼をもがれるわけです。貧困の連鎖から脱却できず、ずっと生活保護で暮らす可能性も高いです。羽ばたこうとしている人たち、これからが大切な人たちにお金をかけない社会って……何なんでしょうか」(飛田さん)

 このままで良いわけはない。それだけは確かだ。

(フリーランス・ライター みわよしこ)