架空の人物が、そこに居るものと考えて行動する

 これを普段の口調でサラサラ言えたり、打てたりするようになれば、ほとんどのややこしいトラブルは起こらなくなる気がします。

 ちなみに、この「お嬢様ごっこ」のきっかけは、ネットで有名な「ドイツ軍の捕虜になったフランス軍人が、架空の少女がいる設定で過ごし、皆礼節を保って捕虜生活を送った」という話を聞いて、試してみようと思ったことでした。

 ◎あらすじ
 世界大戦中にドイツ軍の捕虜になってしまったフランス軍の軍人たちは心がささくれていました。仲間同士で些細なことで小競り合いになり、ケンカをしてしまいます。
 そんな中「ここに少女がいたとしよう」というとんでもない提案が出ました。皆ギョッとしましたが、「ここに少女がいたとして、そんな少女の目の前で紳士である我々が、醜く仲間同士でケンカをするなんてバカげているだろう。だから少女の前で恥ずかしくない立ち居振る舞いをしよう」と言い始めました。
 最初は、ギクシャクしながらも皆で架空の少女のために少ない食事を一人分取り分け、誰かが汚い口調で罵り合いそうになれば、「少女の前だぞ!」と別の人間が仲裁に入りました。架空の少女の誕生日に向けて捕虜の苦しい生活の中、皆各々ができる範囲で贈り物を用意したり、辛いときにも少女が心配しないように気を遣ったりしながら団結して生活。結果、捕虜たちは全員誰も死ぬことなく、人間として尊厳を持ったまま無事帰国しました。めでたしめでたし…。

 残念ながら、これは実在の話ではありません。

 原作はロオマン・ギャリイというフランス人作家の『天国の根』という小説の挿話を、コリン・ウィルソンという作家が『至高体験』という小説の中に引用し、徐々に形を変えて広まった話のようです(元は少女ではなく貴婦人だったり、捕虜はイギリス軍だったり、ネットも相まって物語はどんどん変化したようです)。

 しかし、この話は非常に含蓄があります。

 確かに今、目の前に「あ、この人の前でダサいところ見せたくないな」という人がいると仮定したら、いろんなことを引っ込めないとまずいですよね。

 想定するのは貴婦人でも少女でも、自分の好きな人でも、大ファンの芸能人でも、何でもいいです。

 憧れのその人の前でダラダラ「朝起きたくない」と文句を言い、ハンカチも持たず外に出て、会社でも不平不満をタラタラ言いながら仕事をせず、他人の失敗を見て嘲笑い、歪んだ姿勢でスマホを見ながら食事ができますか?

「あの人の前ではそんなことできない!」というとっておきの人を選んで、30分だけでも「憧れのあの人がいるごっこ」をしてみてください。