ジェンキンズは、イングランド銀行の金融政策委員会の元委員で、シティグループとクレディ・スイスで銀行員も務めた経験から、裏で行われているすべてを見てきた人だ。彼のリストを見れば、銀行の行う種々の不正行為がよくわかる。

例えば、リストにはまず「1.元本保証支払保険の不適切販売」とあるが、不適切販売という言葉はたいてい、詐欺を意味する婉曲表現である。このようなことを列挙したリストが長々と続き、各項目に目を通すたびにゾッとさせられる。

11番目には、現代金融の特質「小規模事業者への貸付慣行の乱用」があり、16番目には、国の権威を貶める「脱税の教唆と幇助」という各国財務省に何千億もの出費を強いるいたちごっこに加担しているものがある。

17番目は、「暴力団的な薬物カルテル組織の資金洗浄の教唆と幇助」であり、中でも特筆すべきは、HSBCの果たした役割で、ロシアのギャング組織およびメキシコのシナロア・カルテルのために、HSBCは何億ドルにも上る資金洗浄を行った。

19番目の「LIBOR(ライボー)の操作」は、800兆ドルにも上るデリバティブ市場の支払い計算に用いられる基準となる数字の操作で、他にもさまざまある。

61番目は、重要度は下がるが「政府系投資ファンドの顧客に媚びる売春婦斡旋」、109番目にひっそりと書かれているのは「アフリカ諸国の大規模な資金洗浄」である。

このリストについて書いている時点で、項目数がすでに144に上っており、いまだ増え続けていて、どれも非常に厄介な問題だ。これらは不正行為のごく一部にすぎず、しかも銀行に限定されたものでしかない。これらすべてを理解し把握しようとすることは、あたかも現在の科学で明らかになっている宇宙の惑星間の距離を子どもに説明しようとする難しさに似ている。これら不正行為が社会に与える損害額は、私たちの算出した推定値の4兆5000億ポンドには含まれていない。

もちろん、この4兆5000億ポンドという巨額の数字にさまざまな異議を唱えることは可能であるし、シティを擁護する人々はおそらく例外なく容赦のない攻撃を仕掛けてくるだろう。しかし、この推定値は、現在シティから発表されている支配的見解―すなわち単純に総雇用数、税収または金融サービスの黒字分をすべて足し合わせた合計値のみを用い、実際にかかっているコスト部分を隠蔽した数字を、金融の経済への「貢献度」として大々的にメディアに垂れ流すよりは、よほど信頼できる数字と言えよう。

肥大化した金融部門のコストに言及せず、利益のみを強調するシティの出す数字はまったく意味を持たない。彼らの数字はグロス(総計)であり、私たちが提示しているのは、ネット(正味)である。しかも、その数字が大きなマイナスを示しているのだ。もちろん、これについての検証はまだ必要である。

しかし、今までのところ、いかにシティが社会に貢献し得る適正規模を大きく超えて肥大化してしまったかを推定するに足る数字ではないかと思っている。そして、これが金融の呪いの規模を理解するにふさわしい出発点となろう。