相手の「価値」を気づかせると、
大きな変化が訪れる

 これが、非常に効果的でした。

「この会社に残したいものは何か?」という問いかけを耳にして、その方は神妙な表情で考え込まれたのです。そして、数日後、「前田さんがこないだ聞いたこと、ちょっと資料にまとめてみたんだけど……」と声をかけてくれました。その方が培った知見を、わかりやすく資料にまとめてくださったのです。

 そこで、私は、すぐにチーム内の勉強会を開催しました。

 その年配社員を講師に、その知見の一部を披露していただいたのです。もちろん、当初、若手メンバーは怪訝そうな表情を浮かべていましたが、管理職である私が率先して質問をしたり、そこで明かされた知見の価値を説明すると、徐々に反応が変わっていきました。

 その後も、折りに触れて、私はその年配社員の知見に頼りました。

 そんな私の姿を見せることで、多くのメンバーが、その方の価値を認めるようになっていきましたし、その方自身も積極的にメンバーの役に立とうという行動を増やしていってくださいました。

 正直に言うと、その親切心が過ぎて、ちょっと“お節介”と感じられる時もありましたが、かつてのように他のメンバーとの間に「壁」をつくっていた頃のことを思えば、僭越ながら、その姿は「可愛らしい」と思えるものでした。要するに、その方はメンバーに受け入れられていったのです。

 こうなると、状況は大きく変わっていきます。

 一定程度、「承認欲求」が満たされたのでしょう。その方は健全な「貢献欲求」を表現してくれるようになり、困難な仕事に自ら手をあげたり、仕事量が多い若手メンバーの手伝いを買って出たりしてくれるようになりました。定年間近になって、再び自走してくれるようになったのです。

 これは、年配社員のエピソードですが、同じようなことは、年齢や性別を問わず起きます。

 重要なのは、管理職が相手のことをよく知ろうとすること。その姿勢さえあれば、どんなにモチベーションを下げている人であっても、その人固有の「価値」を見出すことができます。そして、その「価値」を改めて相手にしっかりと認識してもらうとともに、その「価値」でチームに貢献してほしいと依頼するのです。

 人は誰でも「貢献欲求」をもっています。そのときは、どんなにモチベーションを下げていたとしても、その人のなかには「貢献欲求」があるのです。その「貢献欲求」を引き出してあげることができれば、その人は変わります。もちろん、いつもうまくいくわけではありませんが、管理職は、それを信じることが大切なのだと、私は思っています(詳しくは『課長2.0』をご参照ください)。