「働かないおじさん」は、
なぜ働かないのか?
働かないおじさん──。
近年、このようなモチベーションを下げた年配社員を揶揄する言葉をよく耳にするようになりました。
個人的にはあまり好きな言葉ではありませんが、実際のところ、私が管理職を務めていたときも、それに似たようなケースは散見されました。定年まであと数年。結果を出すために一生懸命に頑張る若手社員を尻目に、できるだけしんどい仕事は避けて、大過なく言われた仕事をこなすだけの年配社員が、私の部署に配属になることも何度かあったのです。
それを、そのまま放置するわけにはいきません。
チームが達成すべき目標をクリアするためには、全メンバーの力を結集しなければならないのはもちろんですが、それ以上に、年配社員に対する若手メンバーの不満や反発が高まると、チームワークそのものが損なわれてしまうからです。
若手メンバーの不満や反発は当然のことです。年功序列の給与体系のなかでは、激務に耐えてチームを支えている若手メンバーよりも、年配社員のほうが多くの給与を得ているからです。実際に、「なんなんですか? あの人は? なんとかしてくださいよ」と私に不満をぶつけてくるメンバーもいました。
とはいえ、年配社員を責めても意味がありません。
そもそも、彼らも若い頃は必死になって頑張っていたはずだし、彼らなりに会社に貢献してきたにもかかわらず、一部の同年代の社員が上層部へと出世していくのを横目にしながら、私のような“若造”の部下という立場に甘んじなければならないのが面白いことであるはずがないからです。
こうした心情を理解もせずに、彼らに何を言っても、理解が得られることはないでしょう。では、どうしたらいいのか? 私は、彼らと「1on1」の場などでの話し合いを重ねながら、考えを巡らせていました。
何の話題のときに、
相手が目を輝かせるかを知る
ひとつ思い当たることがありました。
私は、「1on1」の場では、メンバー一人ひとりの過去の職歴を聞かせてもらうようにしていました。相手を理解するために、「これまで、どんな仕事をしてきたのか?」「どの仕事がいちばん面白かったか?」「仕事で結果を出すために、どんな工夫をしてきたのか?」といったことを教えてもらう必要があったからです。
もちろん、年配社員にも同じことを聞きました。
そして、彼らが、仕事に熱意を燃やしていた頃の話をするときに、みな一様に目を輝かせていることに気づいたのです。
その話にじっくり耳を傾ければ、彼らは、自分が凝らしてきたさまざまな工夫についても詳しく教えてくれました。そうした話には、さすがに深みがあり、ひとりのビジネスパーソンとして勉強になる部分が多々ありました。そして、そのことを素直に伝えると、「まぁ、今となってはどうでもいい話だけどね……」などと謙遜しながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべていました。
あるとき、入浴中に「内観」をしながら、そんな年配社員の様子を思い返していたときに、ハッと思いました。
このまま彼らが定年退職を迎えていけば、彼らが試行錯誤をしながらつかみ取った「貴重な知見」は消え去ってしまう。それは、あまりにも惜しいことではないかと思ったのです。
そこで、私は、ひとりの年配社員にこう尋ねてみました。
「◯◯さんは、残念ながらあと◯年で定年を迎えます。これまで私は、◯◯さんが培っていらっしゃった数々の知見を伺うことができて、とても勉強になりました。でも、私だけが学んでいるのではもったいないと思うんです。定年されるまでに、◯◯さんがこの会社に残したいものは何ですか? それを、若手のメンバーに残していっていただけませんか?」