タレスが「アルケーは水だ」と考えた理由

 タレスはエーゲ海の東海岸(現トルコ)、イオニア地方の都市ミレトスの出身です。

 そのために彼につながる初期の哲学者たちを、「イオニア派」と呼びます。

 また自然を探求する自然科学の立場を取っていたので、後世になると自然哲学者たちとも呼ばれました。

 さてタレスは、この世のアルケーは何であると考えたのでしょうか。

 答えは水です。

 今日では人間の身体の約7割が水であることも、地球上の生命の根源が水であることも判明しています。

 そう考えると、このことを一言で喝破したタレスの直観力には恐るべきものを感じます。

 タレスは特に測量技術や天文学に通じていました。

 「半円に内接する角は直角である」という定理を、中学生の頃に学んだ記憶があると思いますが、彼が発見した定理であるといわれています。

 タレスはたいへん多才な人物でしたが、エピソードもたくさん残した魅力的な人物でもありました。

 あるとき、学問をいくらやっても人生の役には立たないじゃないかと、笑われたことがありました。

 すると天文学に通じていたタレスは、ある年、星座の運行がオリーブの豊作を告げていることを知ると、近在の村里からオリーブの実を搾って油を採る圧搾機を、オリーブの花が咲く前に、全部買い占めてしまったのです。

 そしてオリーブの実が大豊作になったとき、みんながタレスに圧搾機を借りにきたために、彼は大儲けをしました。

 学問がお金儲けにも役立つことを、自ら証明したわけです。

 この本では、哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を出没年つき系図で紹介しました。

 僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップも盛り込んでみたのでぜひご覧いただけたらと思います。

(本原稿は、11万部突破のロングセラー、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です)